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駐在員と現地採用の違いを4軸で比較|給与・年金・ビザ・キャリア

目次

    駐在員と現地採用の違い|雇用主・給与・福利厚生を4軸で比較

    駐在員と現地採用の違いを比較するイメージ

    海外で暮らす日本人は129万8170人。そのうちバンコクに5万1297人(全体の4.0%)、シンガポールに3万3397人(2.6%)が住んでいます。この2都市だけで8万人を超え、その多くが駐在員現地採用のいずれかの形で働いています。

    ただ、この2つは「海外で働く」という点が同じなだけで、中身はまったく別の制度です。誰と雇用契約を結ぶのか、給与が何を基準に決まるのか、日本の年金がどう扱われるのか。いずれも根本から違います。この章では、その違いを4つの軸で整理します。

    統計の出典は外務省「海外在留邦人数調査統計」(令和7年10月1日現在)です。両者の違いを短く確認したい方は、現地採用と駐在採用の違いがよくわかりません(海外就職Q&A)もあわせてご覧ください。

    駐在員とは|日本本社との雇用契約を維持したまま海外赴任する形態

    日本本社から海外拠点に赴任する駐在員のイメージ

    駐在員は、日本本社と雇用契約を結んだまま海外拠点に赴任する形態です。雇用主は日本本社のままで、海外拠点はあくまで勤務地が変わるだけ。この一点を押さえると、以下の特徴はすべて説明がつきます。

    給与

    雇用主が日本本社である以上、日本の給与水準が基準になります。企業によっては、日本の口座に振り込まれる「日本支給分」と、赴任先で受け取る「現地支給分」に分かれる二か所給与の形をとることがあります。この場合、赴任先の生活費は現地支給分でまかない、日本支給分は貯蓄や国内の支払いに充てるという運用になります。

    手当

    赴任手当、住宅手当、一時帰国手当などが用意されるケースがあります。ただしこれらは法律で義務づけられたものではなく、内容も水準も企業により異なります。「駐在員だから当然もらえる」という性質のものではない点に注意してください。

    社会保険

    現地採用との最大の構造的な違いがここです。駐在員は日本本社との雇用関係が続くため、厚生年金の被保険者資格が継続します。海外にいる間も日本の年金制度に加入し続けている状態で、将来の受給に空白が生じません。健康保険についても、多くの場合は日本の制度に残ったまま海外療養費の仕組みを使うことになります。現地採用の場合にどうなるかは、日本年金機構「国民年金の任意加入の手続き」で制度の枠組みを確認できます。

    制約

    一方で自由度はありません。赴任先や職種は自分で選べないのが原則です。赴任の時期も会社の都合で決まり、任期の途中で別の国へ異動になることもあります。「海外で働きたい」という希望はあっても「この国で働きたい」という希望がある場合、駐在員という選択肢はその希望を満たしにくい形態だといえます。

    注意
    注意アイコン

    駐在員の手当は法律で定められたものではなく、企業ごとに大きく異なります。住宅手当の上限額、一時帰国の回数と対象者の範囲、赴任手当の支給タイミングは、いずれも社内規程で決まる事項です。口頭の説明だけで判断せず、オファー時に必ず書面で確認してください。

    現地採用とは|現地法人・現地企業と直接雇用を結ぶ形態

    海外の現地法人と直接雇用契約を結ぶ現地採用のイメージ

    現地採用は、海外の現地法人または現地企業と直接雇用契約を結ぶ形態です。雇用主は現地企業になります。日本本社の子会社であっても、契約の相手は現地法人です。

    給与

    現地の給与水準が基準になるため、日本での額面と比べると下がるケースが多くなります。ここまでは多くの記事に書かれているとおりです。

    ただし、額面だけを見て判断すると実態を見誤ります。たとえばタイの場合、所得税と社会保険の控除が日本と比べて小さいため、手取り率が9割以上になる傾向があります(当社の求人データおよびキャリアアドバイザーの実務知見より)。日本では額面から2〜3割が引かれることを考えると、額面が下がっても手取りの差は想像より小さくなります。さらに家賃や食費といった生活コストも国によって大きく違います。額面の比較だけでは実態を捉えられないというのは、この記事で最初に押さえておきたい点です。

    自由度

    現地採用の最大の利点は選択権が自分にあることです。働く国・企業・職種を自分で選べるうえ、契約先が現地法人であるため転勤で別の国に動かされることが原則ないという特徴もあります。「タイで働きたい」「この業界で経験を積みたい」という具体的な希望がある場合、現地採用のほうが目的に直結します。

    社会保険

    日本本社との雇用関係がなくなるため、厚生年金の被保険者資格は喪失します。国民年金についても、海外在住者は強制加入の対象外となり、任意加入するかどうかを自分で選ぶことになります。将来の受給額に関わる判断ですので、渡航前に整理しておきたい項目です。詳細は次のH3の比較表でまとめて扱います。

    実際にどのような求人があるかは、現地採用社員が活躍している海外求人を探すから確認できます。

    給与・福利厚生・キャリア・ビザの4軸で比較する

    給与・福利厚生・キャリア・ビザの4軸で比較するイメージ

    ここまでの内容を6項目の表に整理します。読むときのポイントを3つだけ先に挙げておきます。

    1つ目は、給与の行を額面だけで読まないこと。前述のとおり手取り率と生活コストが国ごとに違うため、額面の大小はそのまま生活水準の差にはなりません。

    2つ目は、年金の扱いの行です。給与や手当は入社後にも見直せますが、年金の加入期間は後から埋め合わせるのが難しい項目です。判断を先送りにしやすい割に、影響が長く続きます。

    3つ目は、就労ビザと福利厚生の行を、割合の数字として読むことです。「支給されることもある」という表現では判断できませんが、割合がわかれば自分の交渉余地を見積もれます。

    項目 駐在員 現地採用
    雇用主 日本本社 現地法人・現地企業
    給与の基準 日本の給与水準(二か所給与のケースあり) 現地の給与水準(タイでは手取り率9割以上の傾向)
    日本の年金 厚生年金の被保険者資格が継続 資格を喪失。国民年金への任意加入を自分で選択
    住宅・帰国手当 支給されるケースが多い 家賃補助16%一時帰国手当6%
    勤務地・職種の選択 会社が決定 自分で選択できる
    就労ビザ 会社が手続きを主導 会社が費用負担するケースが大半(ビザ費用は96〜97%の企業が負担
    駐在員として海外拠点で働く日本人のイメージ
    現地採用として海外企業で働く日本人のイメージ

    表中の家賃補助16%・一時帰国手当6%・ビザ費用96〜97%という導入率は、ABROADERS CAREERのタイ求人データに基づく数値です。国や業種によって水準は変わりますが、「福利厚生が手薄」と一括りにされがちな現地採用でも、項目ごとに導入率が大きく違うことがわかります。とくにビザ費用はほぼ全社が負担する一方、家賃補助は6社に1社程度。オファー時に書面で確認すべき優先順位も、この差から見えてきます。

    要点まとめ

    まとめアイコン

    4軸のうち、最も見落とされやすいのは年金の扱いです。給与や手当は入社後の交渉や転職で修正できますが、国民年金に任意加入しなかった期間は後から取り戻せません。渡航前に、任意加入するかどうかと保険料の納付方法(口座振替・前納の可否)まで決めておきましょう。

    国別・職種別に見る駐在員/現地採用の求人実情

    東南アジアの日系企業で働く日本人のイメージ

    アジアに日系企業の事業基盤がどれだけあるかは、統計で確かめられます。ジェトロが2025年8〜9月に実施した調査には、北東アジア5、ASEAN9、南西アジア4、オセアニア2の計20カ国・地域から5,109社が回答しています(有効回答率39.6%)。これだけの日系企業が現地に拠点を構えているということは、その分だけ日本人向けの求人が生まれる土壌があるということです。

    ただし、この厚みは国ごとに均等ではありません。国によって主力産業も求人の職種構成も違うため、「東南アジア」とひとくくりにして考えると応募先の選び方を誤ります。この章では主要3カ国の実情と、職種別の給与レンジを具体的な数字で見ていきます。

    調査の詳細はジェトロ「2025年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」(2025年11月公表)で確認できます。

    東南アジア主要国の現地採用事情|タイ・マレーシア・ベトナム

    タイ・マレーシア・ベトナムの現地採用求人のイメージ

    タイ

    当社の求人データでは、日系企業の求人が全体の約60%を占めます。日系メーカーの生産拠点が集積していることが、そのまま求人構成に表れている国です(タイの日系企業で働く求人特集)。

    職種で見ると偏りは明確で、営業職が41.86%と突出しています。次いで企画/事務/マーケティング/PRが18.14%、生産/製造/品質エンジニアが9.3%という構成です。高給・好条件の求人も約19%あります。

    募集条件の傾向としては、現地在住者歓迎・管理職経験歓迎の求人が多く、即戦力志向が強く出ています。勤務環境は8:00〜17:00の勤務時間が多く、土日祝休みが一般的。年間休日は100〜126日の範囲に収まります。現地のビジネス動向はNNAアジアのタイ日系ビジネスニュースなどで追えます。実際の募集内容はタイの現地採用求人一覧を見るから確認できます。

    マレーシア

    日系企業の求人は50%と、タイより比率が下がります。代わりに目立つのが語学要件で、英語力が活かせる求人が55.36%を占めます。公用語環境の違いがそのまま求人の性格に反映されている国です。

    職種構成はタイと大きく異なり、企画/事務/マーケティング/PRが32.14%で最多。接客/カスタマーサービス/飲食/コールセンターと営業/セールスエンジニアがそれぞれ21.43%で並びます。営業一辺倒のタイに対し、バックオフィスと顧客対応に厚みがあるのが特徴です。

    もうひとつの特徴が、管理職経験歓迎が46.43%という高さです。リーダー層の需要が大きく、日本でマネジメント経験を積んだ方には入りやすい市場だといえます。加えてBPO・コールセンター業界が日本語話者の入口として機能しており、海外就業が初めての方の受け皿にもなっています。詳細はマレーシアの現地採用ポジションを探すをご覧ください。

    ベトナム

    製造業の現地法人が多く、求人の中心は生産管理・品質管理・エンジニア職です。前2カ国と比べて技術系の比重が高く、日本の工場で培った経験がそのまま評価されやすい構造になっています。なお製造業を中心に「駐在員切替あり」の求人も見られますが、この論点はのちの章で詳しく扱います。募集の傾向はベトナムの海外求人一覧を見るから確認してください。

    3カ国を並べると、タイは営業マレーシアはバックオフィスと英語ベトナムは製造と、求人の重心がはっきり分かれます。国を選ぶことは、実質的に職種を選ぶことと同じだと考えてください。

    注意
    注意アイコン

    ここで挙げた職種構成と給与レンジは、掲載時点の求人データを集計したものです。募集状況は月単位で変動し、特定の職種が一時的に増減することもあります。応募前には最新の求人一覧で件数と条件を確認してください。

    職種別の求人傾向と給与レンジ

    職種別の求人傾向と給与レンジを確認するイメージ

    国ごとの職種構成がわかったところで、次は金額です。当社の求人データから、タイとマレーシアの主要職種の月額レンジを現地通貨で整理しました。

    先に読み方を3点だけ挙げておきます。

    1つ目は、タイでは生産/製造/品質エンジニアが最も高いという点です。上限・下限ともに他職種を上回っており、製造業の集積が給与水準に反映されています。求人数では営業職が4割超と最多である一方、金額では製造・品質系が上を行く。数の多い職種と条件の良い職種は必ずしも一致しません。営業職の募集状況は海外の営業・セールスエンジニア求人を探すから確認できます。

    2つ目は、マレーシアの職種間の差が比較的小さいことです。どの職種を選んでもレンジの幅はさほど変わらないため、金額を左右するのは職種よりも個人の要件になります。とくに英語力の有無がレンジ内の位置を左右すると考えてください。前述のとおり英語力を求める求人が55%を超える市場ですから、語学が直接条件に跳ね返ります。

    3つ目は為替です。2026年時点で1バーツは5円を超えて推移しており、同じバーツ建ての給与でも円換算額は時期によって変わります。日本円に直した数字で一喜一憂せず、現地通貨ベースで生活設計すべきです。家賃も食費も現地通貨で支払う以上、判断の物差しも現地通貨に置くのが自然です。

    職種別の月額給与レンジ(現地通貨)

    職種 タイ(THB) マレーシア(MYR)
    営業/セールスエンジニア 67,500〜109,000 8,042〜13,792
    企画/事務/マーケティング/PR 67,000〜104,000 6,722〜12,222
    生産/製造/品質エンジニア 94,500〜139,500
    接客/カスタマーサービス 7,167〜10,108

    当社の求人データより。表の数値は求人票の提示レンジであり、実際のオファー額は経験・語学力・ポジションで決まる点にご注意ください。

    タイの日系企業のオフィスで働くイメージ
    マレーシアで英語を使って働くイメージ
    ベトナムの製造現場で働くイメージ
    ここがポイント
    ポイントアイコン

    額面のレンジを比べるより、現地通貨での手取りと生活費の差額で判断するほうが実態に近づきます。求人を絞り込む段階で、家賃・食費・交通費の月額を現地の相場で見積もり、提示レンジの下限でも成り立つかを先に確認しておきましょう。

    駐在員という選択肢と、現地採用からのキャリアの広げ方

    本社と現地をつなぐ駐在員の役割のイメージ

    駐在員として海外に出た場合、日々の仕事の中心になるのは本社と現地の橋渡し役としての業務です。現地法人の状況と方針を本社に説明し、本社の意思決定を現地に落とし込む。この往復が業務時間の多くを占めます。現地スタッフのマネジメントも担いますが、本社の意向を理解している人間が現場にいること自体が、赴任の目的だと考えるとわかりやすいでしょう。責任範囲の広いポジションを狙う方は、経験者向け・シニアレベルの海外求人ガイドもあわせてご覧ください。

    報酬の受け取り方にも特徴があります。企業によっては二か所給与の形をとり、日本の口座に振り込まれる分と赴任先で受け取る分に分かれます。家族が日本に残る場合、生活費を日本でも受け取れるため実務的な意味があります。

    税務面では、タイのように現地の個人所得税を会社が負担するケースが見られる国もあります。ただし、ここには注意点があります。タイの税法では住宅補助は非課税所得にならず、全額が個人所得税の対象になります。手当が増えれば課税所得も増えるため、額面上の待遇の厚さがそのまま手取りの厚さにはなりません。オファーを比較する際は、手当の総額ではなく課税後の金額で見てください。

    一方で、赴任先・時期・職種を自分で選べないという制約があることは第1章で述べたとおりです。

    ここからは、現地採用との関係について整理します。

    かつては、待遇面で駐在員が圧倒的に有利だとされてきました。ただし現在は、現地企業や外資系企業で成果を出した現地採用者が高い待遇を得るケースが増えています。評価が成果に連動する分、実力次第で条件を引き上げられる余地があるということです。

    選ぶ理由も多様化しています。責任の重いポジションよりも、ワークライフバランスを重視して現地採用を選ぶ人も増えているのが実情です。住む国を自分で決め、生活の質を優先する。それは消極的な選択ではありません。

    現地採用=妥協ではないという点は、この記事ではっきり述べておきます。駐在の順番が回ってこなかった人の受け皿ではなく、キャリアの設計として選ばれる働き方です。両者の条件を具体的に比べたい方は、アジアで高給・好条件の海外求人を見つける|駐在員・現地採用の転職術が参考になります。

    コメントアイコン

    筆者からのコメント

    駐在員と現地採用は、優劣の関係ではありません。キャリアのどの段階で海外に出るか、という問題です。20代で現地採用として出た方が30代で日本本社に採用されるケースもあれば、駐在を経てそのまま現地に残る方もいます。いま自分がどちらの入口に立てるかを基準に選ぶのが現実的です。

    現地採用から駐在員に切り替わるルートはあるのか

    現地採用から駐在員への切り替えを目指すイメージ

    「現地採用で入って、あとから駐在員になれるのか」。この疑問は多くの方が持ちますが、明確に書かれた情報は多くありません。結論から言えば、そうしたルートを想定した求人は実在します。

    当社の求人データでは、駐在員切替ありという条件で絞り込める求人があります(駐在員への切り替え制度がある求人を見る)。

    掲載されている求人はタイ・ベトナム・マレーシア・シンガポール・インドネシアにまたがり、業種も製造業・商社・コンサルティング・人材・ITと幅があります。製造業では金型、ダイカスト、家具、プラスチック部品といった分野で見られ、現地法人での実務を経てから本社採用に移行する流れが想定されているものです。

    求人票では本社採用切り替えの可能性あり、あるいは「駐在雇用の可能性あり」といった表現で示されることが多くなっています。

    ここで押さえておきたいのは、これが「可能性あり」であって確約ではないという点です。切り替えの条件は企業によって異なり、在籍年数を基準にする会社もあれば、特定のポジションに就いたタイミングで検討する会社もあります。評価基準も同じではありません。

    したがって、選考時に具体的に確認すべきです。過去に切り替えの実績があるか、何年目での事例か、条件として何が求められるのか。この3点を聞けば、制度が実際に運用されているのか、それとも文言だけなのかが判別できます。

    あわせて有効なのが、応募時点から希望を伝えておくことです。「将来的に本社採用への切り替えを希望している」と最初に共有しておけば、企業側の想定とのずれを避けられます。数年働いてから初めて切り出すより、双方にとって話が早くなります。国ごとの事情を知りたい方は、インドで働く日本人のリアル|就労ビザ・年収・駐在と現地採用の違いのような国別の解説も参考にしてください。

    ここがポイント
    ポイントアイコン

    「駐在員切替あり」は確約ではありません。選考の場で、在籍年数の目安、評価基準、過去の切り替え実績の有無を具体的に質問してください。実績を挙げられない場合、制度が文言として存在するだけの可能性があります。

    現地採用のメリット・デメリットと、応募前に確認すべきこと

    現地採用のメリットとデメリットを検討するイメージ

    現地採用のメリットとデメリットは、別々の話ではありません。どちらも自分で選べる=会社が守ってくれないという同じ構造から生まれています。勤務地を自分で決められるということは、赴任手当を用意してくれる本社がいないということでもある。この対応関係を理解しておくと、求人票の読み方が変わります。

    もうひとつ、この章で扱うのが就労ビザです。給与も待遇も交渉の余地がありますが、ビザの要件だけは国が法令で決めており、応募者の努力ではどうにもなりません。国ごとの要件を数字で押さえたうえで、応募前に確認すべき項目を最後にリスト化します。

    現地採用のメリット|勤務地と職種を自分で選べること

    勤務地と職種を自分で選んで海外で働くイメージ

    最大の利点は、意思決定の主導権が自分にあることです。働く国も企業も職種も、自分のタイミングで選べます。社内で海外赴任の候補に挙がるのを待つ必要がなく、駐在の順番待ちが不要です。20代のうちから海外での実務経験を積みたい場合、現実的にはこのルートしかありません。

    雇用契約の相手が現地法人であるため、転勤で別の国に動かされることが原則ないのも大きな違いです。数年で異動する前提の駐在員と違い、住まいや人間関係を長期で積み上げられます。現地に腰を据えたいと考えている方には、この点が決定的な差になります。

    働き方の面では、現地企業や外資系企業を中心に成果で評価する仕組みが定着しており、ワークライフバランスを重視した制度を整えている企業も少なくありません。日本の勤務環境と比べて、労働時間あたりの成果で見られる度合いが強くなります。

    ここからは、その裏返しとして生じるデメリットです。

    まず給与です。現地水準が基準になるため、日本での額面より下がるケースが多くなります。ただし前章で見たとおり、控除の少なさから手取り率は高くなる傾向があります(PwCによるタイの個人所得税の解説)。条件のよい求人を軸に探したい方はアジアの高給・好条件求人を見るから比較してみてください。

    福利厚生は項目によって差が大きく、一律に「手薄」とはいえません。当社の求人データでは、タイの民間医療保険の導入率は74%、健康診断は80%と、医療面のサポートは相応に整っています。一方で家賃補助や一時帰国手当の導入率が限られることは、第1章の比較表で示したとおりです。医療は守られているが住居費は自己負担、という構図で捉えると実態に近くなります。

    制度面で最も注意したいのが年金です。日本の厚生年金から外れるため、国民年金に任意加入するかどうかを自分で判断し、手続きも自分で行う必要があります。誰も代わりにやってくれません。

    キャリア面では、日系企業の現地法人において管理職ポジションを駐在員が占めている場合があり、その場合は昇進の上限が事実上決まっていることになります。ただしこれは企業により異なり、現地採用者を幹部に登用している会社も存在します。選考の段階で、現地採用者が就いている最上位のポジションを確認しておくとよいでしょう。

    生活費の目安も挙げておきます。バンコクの場合、節約重視なら月2万2,000〜2万3,000バーツ、標準的な生活で月3万5,000〜5万バーツ、家賃は市内で月1万〜2万バーツが目安です(当社キャリアアドバイザーの知見より)。提示された給与がこの水準に対してどうかを見れば、生活の見通しは立ちます。国ごとの条件を比べたい方はアジア各国の高給求人特集もご覧ください。

    要点まとめ

    まとめアイコン

    メリットとデメリットは同じ構造から生じています。勤務地を自分で選べるのは、赴任を命じる本社がいないからであり、赴任手当を用意する本社もいないということです。片方だけを見て判断せず、「自分で決められる範囲」と「自分で備える範囲」が同じ広さであると理解しておきましょう。

    就労ビザの要件は国が決めている|シンガポール・マレーシア・タイの比較

    シンガポール・マレーシア・タイの就労ビザ要件を比較するイメージ

    就労ビザの要件は、応募者の熱意や実力とは無関係に、国の法令で決まっています。しかも国によって基準の置き方がまったく違います。主要3カ国を具体的な数字で見ていきます。

    シンガポール(Employment Pass)

    シンガポールは給与額そのものが要件になっています。金融サービス以外の全業種で最低給与は月額S$5,600。しかもこの基準は年齢とともに上がり、23歳を起点として45歳以上ではS$10,700が必要になります。金融サービス分野はさらに高く、S$6,200〜S$11,800です。

    加えて2027年1月1日以降の新規申請、および2028年1月1日以降に満了する更新からは、S$6,000(45歳以上はS$11,500)、金融サービスはS$6,600へと引き上げられます。給与要件を満たしたうえで、さらにCOMPASSと呼ばれるポイント制の補完性評価にも通過しなければなりません。

    この仕組みから導かれる含意は明確です。年齢が上がるほど企業が支払うべき給与のハードルが上がるため、シンガポールの現地採用は若いうちのほうが入りやすい構造になっています。30代後半以降に検討する場合は、その年齢帯の基準額を上回るポジションに絞る必要があります。

    要件の詳細はシンガポール人材省が定めるEmployment Passの適格給与要件で確認できます。実際の募集はシンガポールの海外求人を見るから、制度の全体像はシンガポール転職のビザ完全ガイド|EP・S Pass最新基準を解説もあわせてご覧ください。

    マレーシア(Employment Pass)

    マレーシアは2026年6月1日施行の制度改正で基準が整理されました。給与額に応じて3つのカテゴリーに分かれ、それぞれ滞在できる総雇用期間の上限が異なります。カテゴリーⅢは最低基本月給RM5,000〜9,999で上限は最長5年、カテゴリーⅡはRM10,000〜19,999で上限10年、カテゴリーⅠはRM20,000〜で上限10年です。

    実務上とくに重要なのが、判定に使われるのが手当・賞与・海外払い分を除いた基本給のみである点です。求人票に書かれた金額が基本給なのか手当込みの総支給額なのかで、ビザが下りるかどうかが変わります。応募時に必ず内訳を確認してください。なお2026年6月1日以降に発給されたカテゴリーⅢのEPでは、家族帯同の申請ができるようになりました。

    制度の解説はジェトロによるマレーシアの外国人就業規制の解説が詳しいです。

    タイ(ノンイミグラントBビザ+労働許可証)

    タイは前2カ国と発想が異なり、応募者ではなく受け入れ企業に条件が課されます。外国人労働者1人につき、払込済資本金200万バーツの登録が必要です。200万バーツごとに外国人1人分の労働許可が発行され、一定の条件を満たさない限り上限は10人となります。ただしBOIの投資奨励を受けた企業は適用外で、この枠に縛られません。

    つまりタイでの現地採用は、自分のスキルだけでなく受け入れ企業の資本規模にも左右されるということです。小規模な現地法人では、そもそも外国人を雇用できる枠が埋まっている可能性があります。詳細はジェトロによるタイの外国人就業規制と労働許可の解説をご確認ください。

    項目 シンガポール マレーシア タイ
    制度名 Employment Pass Employment Pass Bビザ+労働許可証
    給与の基準 月S$5,600〜(45歳以上S$10,700) 基本給 月RM5,000〜(カテゴリーⅢ)
    年齢の影響 年齢とともに要件が上昇 カテゴリー区分に年齢要件なし
    企業側の要件 COMPASS通過 カテゴリーごとの給与水準 払込資本金200万バーツ/外国人1人
    シンガポールの就労ビザ要件を確認するイメージ
    マレーシアの就労ビザ制度改正を確認するイメージ
    タイの労働許可証の取得手続きのイメージ
    注意
    注意アイコン

    ビザ制度は改正が頻繁です。マレーシアは2026年6月に給与基準が引き上げられたばかりで、シンガポールも2027年1月の新規申請分から新基準に移行します。ここに記載した数値は執筆時点のものですので、応募の際は必ず各国の公的機関の最新情報をご確認ください。

    チェックポイントアイコン

    チェックポイント

    オファーを受ける前に、次の6項目を書面で確認してください。

    • 提示給与は基本給か、手当込みか(ビザ要件の判定に直結します)
    • 就労ビザ・労働許可の費用は会社負担か
    • 民間医療保険の有無とカバー範囲(家族帯同時の扱いを含む)
    • 家賃補助・一時帰国手当の有無と金額
    • 契約期間と、期間満了前に退職した場合のペナルティ条項
    • 帰任・昇進のルート(現地採用から駐在員への切り替え制度があるか)

    年金と生活費については、海外就職する際、年金はどうなりますか?(海外就職Q&A)タイで最低月給5万バーツと言われました。暮らしていけますか?(海外就職Q&A)もあわせてご確認ください。

    海外転職求人の探し方と選考対策

    海外転職の求人を探し選考対策を進めるイメージ

    現地採用の選考は、日本国内の転職とプロセスが違います。まず知っておきたいのが、渡航しなくても選考が進むことです。当社のタイ求人データでは、オンラインで内定まで進められる求人が13.49%を占めます。一次面接から内定通知まで、日本にいたまま完結するケースがあるということです。

    実際の流れとしては、日本に居住したまま選考を受け、内定が出てからビザ手続きと渡航日を調整するのが一般的です。退職・引っ越し・現地での住まい探しは、この内定後の期間に並行して進めることになります。

    ただし就労ビザの発給には時間がかかります。内定が出れば翌月から働けるという性質のものではないため、渡航希望時期から逆算して動く必要があります。この章では、求人の集め方から選考、ビザ手続きまでの進め方を順に整理します。

    求人情報の集め方|エージェント・求人サイト・企業の採用ページ

    転職エージェントや求人サイトで情報を集めるイメージ

    情報の入口は3つあります。それぞれ得意な領域が違うので、目的に応じて使い分けてください。

    1. 海外転職に特化した人材紹介会社

    最大の利点は、求人票に出ない条件を教えてもらえることです。ビザ費用を会社が負担するのか、現地採用の日本人が何名在籍しているのか、駐在員への切り替え実績があるのか。こうした情報は募集要項には書かれませんが、現地に拠点を持つエージェントであれば把握していることがあります。

    複数社に登録するのは有効ですが、その場合は応募先を自分で管理してください。同じ求人を別ルートで紹介されると、企業側で応募が重複し、選考が止まる原因になります。

    2. 海外求人に特化した求人サイト

    国・職種・こだわり条件で横断的に絞り込めるのが強みです。ABROADERS CAREER では「現地採用社員活躍中」「駐在員切替あり」といった条件で検索できるため、働き方から逆引きして求人を探せます。

    掲載状況は月単位で変わります。一度見て終わりにせず、定点観測する前提で使うと取りこぼしが減ります。

    3. 企業の採用ページ

    現地法人が独自に募集をかけているケースがあります。ただし日本語での情報が限られることが多く、応募前の条件確認に手間がかかる点は織り込んでおきましょう。

    3つの経路のうち、条件面の実態を確認できるのはエージェント経由です。面談の場では、次の3点を必ず聞いてください。

    要点まとめ

    まとめアイコン

    エージェントに聞くべき3つの質問

    • ビザ費用は会社負担か
    • 現地採用の日本人が何名在籍しているか
    • 駐在員への切り替え実績があるか

    応募書類・面接・就労ビザ手続きの進め方

    応募書類の準備とオンライン面接に臨むイメージ

    応募書類

    日系企業の現地法人であれば、日本語の履歴書・職務経歴書で足りるケースが多くなります。日本本社の人事が選考に関わることもあるためです。

    外資系企業や現地企業に応募する場合は英文レジュメが必要です。ここで注意したいのは、日本の履歴書をそのまま英訳しても評価されないことです。時系列の職歴の羅列ではなく、実績を数値で書く形式に組み替える必要があります。担当した規模、達成した数字、期間の3点を軸に書き直してください。

    面接

    選考の中心にあるのは、なぜ日本ではなく、この国で働きたいのかという問いです。そしてこの問いに答えられないことが、不合格の最大の理由になります。「海外で働きたい」だけでは、なぜタイなのか、なぜこの会社なのかの説明になっていません。志望国と志望企業を選んだ理由を、自分の経験と結びつけて語れる状態にしておいてください。

    語学力については、過度に身構える必要はありません。当社の求人データでは、タイで日常会話レベルを求める求人が全体の約7割を占めます(TOEIC500〜600点程度)。さらにタイ語は営業職の約7割が不問としています。完璧な語学力より、業務で使いながら伸ばしていく姿勢のほうが評価されます。

    もうひとつ、生活面の質問も選考の一部です。住まいをどうするか、家族は帯同するか、いつから働けるか。特に渡航可能時期は、企業側が採用計画を立てるうえで必要な情報ですので、明確に答えられるようにしておきましょう。

    就労ビザ手続き

    内定後は、会社側が申請を主導するのが一般的です。費用についても、当社の求人データではタイで費用の96〜97%を企業が負担しています。自己負担を前提に考える必要はほとんどありません。

    問題は期間です。申請から発給まで1〜2か月程度かかることが多く、書類の不備があればさらに延びます。渡航希望時期の3〜6か月前から動き始めるのが現実的なスケジュールです。

    準備で見落としやすいのが学歴証明書(英文)です。大学に取り寄せを依頼する必要があり、発行まで数週間かかることがあります。選考が進み始めた段階で手配しておくと、あとで待たされずに済みます。

    注意
    注意アイコン

    内定から渡航までが1〜2か月で収まらないケースは珍しくありません。書類の追加提出を求められたり、現地の行政手続きが混み合ったりすると、さらに時間がかかります。現職の退職日を内定前に確定させてしまうと、無収入の期間が生じるおそれがあります。ビザ申請の見通しが立ってから退職交渉に入るようにしてください。

    コメントアイコン

    筆者からのコメント

    駐在員と現地採用のどちらが正解か、という問いに一般解はありません。考えるべきは、いまの自分が出せる条件で、どちらのルートが実際に開いているかです。社内で赴任の候補に挙がる見込みがあるのか、それとも自分で応募したほうが早いのか。求人を実際に見て、条件と自分の経歴を突き合わせるところから始めてみてください。

    海外転職のオンライン面接に臨むイメージ
    就労ビザの発給を待って渡航準備を進めるイメージ

    ※他社サービスの情報も併せて確認したい方は、他社の海外・グローバル転職特集他社による現地採用と駐在の比較Q&Aなどを参照してください。

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