タイでコンサルタントとして働く、と聞いてどんな仕事を思い浮かべるでしょうか。日系企業の進出支援でしょうか、それとも戦略ファームのプロジェクトでしょうか。ABROADERS CAREERに掲載されているタイのコンサルティング職の求人15件(2026年8月時点)を一件ずつ読むと、そのどちらもあり、さらに会計・税務、人事、IT、ECまで含む幅広い顔ぶれが並んでいました。
特徴的なのは3つです。まず15件すべてがバンコク勤務であること。次に月給が50,000バーツから300,000バーツまで、6倍もの開きがあること。そして「未経験応募可」「コンサルティング未経験者歓迎」と明記された求人が複数あることです。この記事では、実際の求人の中身をもとに、ファームの選び方から給与構造、未経験からの入口までを整理します。
進出支援から撤退支援まで|バンコクに集まる15件の求人
なぜタイにコンサルティングの仕事があるのか。答えは、支援を必要とする日系企業がそこにあるからです。ジェトロが2024年度に実施した調査は、タイに拠点を置く日系企業6,083社の活動をもとに分析されています。これだけの数の企業が、進出、事業運営、組織づくり、そして時には撤退という局面で外部の専門家を必要とします。
掲載求人の会社概要を読むと、その需要の具体像が見えてきます。ある企業は「タイへの新規進出・撤退支援、ビザ・労働許可証取得支援、カーボンニュートラル等のコンサルティング」を手がけ、既存クライアントは約70社。別の総合コンサルティング会社は1989年に大手銀行のグループ会社として設立され、「各種法規制、商習慣、産業動向に精通したプロフェッショナルによる進出支援、調査、リストラクチャリング、ビジネスマッチング提案」を提供しています。
タイ全体の掲載求人に占めるコンサルティング職の割合は6.82%。営業や企画・事務に比べれば小さいカテゴリですが、15件がすべてバンコクに集中している点が、この職種の性格をよく表しています。
総合系・IT系・会計系・人事系|募集ファームの4タイプ
15件を提供サービスで分類すると、次の4タイプになります。
総合・戦略系。日系大手の経営コンサルティング会社が3ポジション(コンサルタント、システムコンサルタント、セキュリティコンサルタント)を同時に募集しているほか、中堅中小から大企業向けに戦略コンサルティング、マーケットリサーチ、市場参入支援、デューデリジェンス、JV・パートナーシップ支援までを提供する日系総合ファームもあります。給与は70,000〜200,000バーツと幅があります。
会計・税務系。世界的な大手会計事務所が税務シニアアソシエイトと税務ディレクター候補を、日系の会計事務所が公認会計士を募集しています。業務は税務・法務の実務遂行と意見書レビュー、月次記帳・申告、財務/税務デューデリジェンスなど。会計事務所の2件は外資系で、求人票には「社内コミュニケーションは全て英語」と明記されています。
IT・DX系。ERPの導入支援を行うSAPコンサルタントの求人は月給120,000〜300,000バーツと、15件の中で最も高い水準です。業務プロセスの調査・分析から新規システムの仕様検討、海外ロールアウト、RFP作成、ベンダー選定支援までが業務範囲。日系大手のシステムコンサルタントやセキュリティコンサルタントも、日系顧客のASEAN拠点に対するデジタル変革支援という文脈で募集されています。
人事・マーケティング・EC系。人事制度の設計・運用支援、研修やワークショップの企画実施、組織風土改革を担う人事コンサルティングの専門ファーム。マーケティング領域を担うアドバイザリーファーム。そしてWEB制作・マーケティング支援会社によるECコンサルタントとWEBコンサルタントの募集があり、前者の求人票にはLAZADAやShopeeといった東南アジアのECモールに関する知見を身につけられるとあります。
月給5万〜30万バーツ|SAPコンサルが示す上限
15件のうち、提供サービスの領域がはっきりしている12件の給与レンジを整理しました。
| 領域 | 月給レンジ(バーツ) | 代表的なポジション |
|---|---|---|
| IT・DX系 | 70,000〜300,000 | SAPコンサルタント、システムコンサルタント、セキュリティコンサルタント |
| 会計・税務系 | 70,000〜200,000 | 税務シニアアソシエイト、税務ディレクター候補、公認会計士 |
| 総合・戦略系 | 70,000〜200,000 | 成長戦略コンサルタント、経営コンサルタント |
| 人事・マーケ系 | 70,000〜100,000 | 人事組織コンサルタント、マーケティングコンサルタント |
| EC・WEB系 | 50,000〜65,000 | ECコンサルタント、WEBコンサルタント |
上限にあたるのはSAPコンサルタントの300,000バーツ。ERPという専門領域と、その導入を海外拠点へ展開できる経験が評価されています。下限はEC・WEB系の50,000バーツで、こちらは未経験からの入口として設計されたポジションです。
ただし、掲示された月給だけで判断すると見誤ります。EC・WEB系の求人には歩合給があり、求人票には「個人の業績次第で、2年目以降で1000万円以上の年収を獲得する社員もいます」と書かれています。逆に会計事務所のディレクター候補(150,000〜200,000バーツ)のように、レンジは狭くても役割の重さで水準が決まるポジションもあります。
未経験歓迎が4件|コンサル経験がなくても入口はある
コンサルティングと聞くと経験者だけの世界に思えますが、掲載求人を読むとそうでもありません。15件のうち4件が、コンサルティング未経験でも応募できることを明示しています。
ひとつはローカルコンサルティング会社のコンサルタントコーディネーター(60,000〜70,000バーツ)で、タイトルに「未経験から挑戦可能」とあります。ライセンスやビザの取得、会計といった専門実務はローカルスタッフが担当するため、応募者はクライアントの課題を聞き、社内のリソースを提案する役回りに集中できる構造です。
ふたつめとみっつめが、WEB制作・マーケティング支援会社のECコンサルタントとWEBコンサルタント。どちらも「未経験応募可」で、前者は新卒歓迎かつTOEIC700点以上が条件です。求人票には「未経験の方へも経験豊富なコンサルタントが丁寧に指導」とあります。
よっつめが、製造業向けの日系独立系コンサルティング会社(80,000〜90,000バーツ)です。この求人は「語学不問・コンサルティング未経験者歓迎」を掲げています。業務は生産性向上、品質管理、コストダウン、納期短縮、人材育成といった、ものづくり現場の課題解決。つまりコンサルの経験がなくても、工場での実務経験がそのまま武器になるということです。日本の製造現場でカイゼンを回してきた方には、現実的な選択肢になります。
週3日リモート、フレックス|製造業とは違う働き方
働き方の記述が具体的なのも、この職種の特徴です。日系大手の経営コンサルティング会社の求人には「週3日リモート勤務可能、週2日オフィス勤務」と明記されています。人事コンサルティングファームはフレックスタイム制でリモートワークも可、マーケティングコンサルタントの求人は「在宅可!柔軟な働き方が可能!」と打ち出しています。
始業時間は8:00始業が7件、9:00始業が6件とほぼ半々で、都心のオフィス勤務でも朝が早い職場は珍しくありません。またプロジェクト型の仕事である以上、変動もあります。ある求人には「就労時間: プロジェクト都合により 8:00-17:00、もしくは9:00-18:00となります」「お客様都合で客先オフィスに出社が必要な場合がございます」とあり、人事コンサルの求人には「プロジェクトによっては土曜出勤有り(代休取得可能)」と書かれています。
有給休暇の記載も明確で、日系大手コンサルの3件はいずれも初年度10日付与、次年度から1日ずつ加算され上限15日。日系総合ファームの成長戦略コンサルタントは年間休日122日です。
日系クライアントが中心|英語はどこまで必要か
語学要件は、ファームのタイプではっきり分かれます。
最も高い水準を求めているのが、日系大手金融グループのコンサルタント(TOEIC850点以上が目安)と、外資系の会計事務所です。後者は求人票に「外資系企業となるため、社内コミュニケーションは全て英語」と書かれており、日常業務が英語で回ります。次いで日系大手のセキュリティコンサルタントがTOEIC800点以上、ECコンサルタントとSAPコンサルタントがTOEIC700点以上と続きます。
一方で、明確なスコア要件を置かず「英語力が活かせる」という表現にとどまる求人も多くあります。クライアントが日系企業であるため、提案書も打ち合わせも日本語で進む場面が多いからです。そして前述のとおり、製造業向けの独立系ファームには「語学力不問」の求人があります。
整理すると、外資系会計事務所や金融系・IT系の一部は高い英語力が前提、日本語中心で英語は加点というファームも多く、製造業支援の現場系は語学より実務経験、という構図です。同じコンサルティング職でも、自分の語学力に合わせて選べる余地があります。
戦略・DX・税務・人事|案件テーマで見る仕事の中身
実際にどんなプロジェクトに関わるのか、求人票の記述から拾ってみます。
- 市場参入・事業開発:東南アジアを対象とした調査、戦略策定、その後の実行支援。デューデリジェンス、JV・パートナーシップのサポートまで含みます。
- デジタル変革(DX):CXOの補佐役から、クライアントのビジネス/IT部門の一員としての実行支援まで。ERP導入、海外ロールアウト、ベンダー選定支援。
- サイバーセキュリティ:日系企業のASEAN拠点に対し、診断ツールを使ったIT・OT環境の評価から対策方針の策定・実行まで一貫して支援します。
- 税務・法務:実務の遂行と意見書のレビュー、日系支援チームの窓口としての案件開拓。月次記帳・申告、財務/税務デューデリジェンス。
- 人事・組織:人事制度の設計・運用支援、経営層・管理職・一般従業員向けの研修やワークショップ、組織風土改革。タイを拠点に東南アジアおよびインドまでを担当範囲とするファームもあります。
共通しているのは、提案して終わりではなく実行支援まで入るという点です。日系総合ファームの成長戦略コンサルタントの求人票には「営業活動(ポテンシャル顧客のビジネス課題を特定し、提案し、プロジェクトを獲得する)」という記述があり、案件を取ってくるところから関わる働き方が前提のポジションもあります。
全15件がバンコク|シーロムとスクンビットに集まる理由
今回の15件は、例外なくバンコク勤務でした。製造業の職種がチョンブリーやアユタヤの工業団地に散らばるのとは対照的です。
勤務地の記載を見ると、BTSシーロム線、BTSスクンビット線、MRT沿線という表記が並びます。シーロムとスクンビットはバンコクのビジネス街で、日系企業の事務所やタイ法人の本社機能、会計事務所、金融機関が集まるエリアです。クライアントを訪問し、打ち合わせを重ねる仕事である以上、拠点が都心にあるのは自然な帰結といえます。
通勤の面では、いずれも駅からのアクセスがよく、電車通勤が現実的です。バンコクは自動車の渋滞が深刻なため、これは生活面で小さくない利点になります。
歩合給と駐在切り替え|報酬の伸ばし方は2通り
コンサルタントとして収入を伸ばす道は、掲載求人を見る限り2通りあります。
ひとつが成果連動です。EC・WEBコンサルタントの求人には歩合給があり、月給のレンジ自体は50,000〜65,000バーツと控えめでも、業績次第で大きく変わる設計になっています。
もうひとつが雇用形態の切り替えです。SAPコンサルタントの求人には「駐在員切替あり」と明記され、日系会計事務所の公認会計士の求人には「駐在員雇用の検討可能」とあります。現地採用として入り、実績を積んで日本本社採用や駐在待遇に移行するルートです。現地採用と駐在では給与水準や住居補助の扱いが大きく違うため、この記載があるかどうかは長期のキャリアを考えるうえで重要な情報になります。
ビザ・就労許可と、コンサルからのキャリアの広げ方
タイで働くには、ノンイミグラントBビザ(就労目的の査証)とワークパーミット(労働許可証)が必要です。掲載求人の多くは現地法人による正社員採用で、ビザ・労働許可証の手続きは採用企業が主体となって進めます(マーケティングコンサルタントの1件は、正社員のほか業務委託やパートタイムも選択可能とされています)。応募者が個人で申請する場面はまずありません。なお、興味深いことに、そのビザ・労働許可証の取得支援そのものをサービスとして提供しているコンサルティング会社の求人も今回の15件に含まれています。
キャリアの広げ方としては、専門領域を深める道と、クライアント側へ移る道があります。前者は税務シニアアソシエイトからディレクターへ、あるいはコンサルタントからプロジェクトマネジメントを担うシニアコンサルタント・マネージャーへという垂直の伸ばし方。後者は、コンサルとして多数の日系企業の内側を見た経験を活かし、事業会社の経営企画や海外拠点の管理職へ移るルートです。
タイのコンサルティング職は、日系企業6,083社という土台の上に成り立っています。日本での実務経験が「支援する側」の資産に変わるのがこの仕事の面白さです。まずは実際の求人を眺めて、自分の経験がどの領域に接続するか確かめてみてください。
※本記事の求人情報・給与・勤務条件は、ABROADERS CAREER 掲載求人(求人掲載元:Reeracoen Thailand、2026年8月時点)に基づいています。職種分布は同サイトの「タイ 転職トレンド分析 2026」を参照しました。タイの日系企業数はジェトロ「タイ日系企業進出動向調査2024年度」(2025年2月)によります。