タイの給与水準を調べると、全国平均と日本人向け求人で金額が大きく異なることがあります。比較する前に、その数字が誰の、どの期間の、何を含む収入なのかを確認しましょう。
タイ国家統計局(NSO)の2026年4〜6月の労働力調査では、雇われて働く人の全国平均月額賃金は、整数に丸めて15,853バーツです。この表示額を単純に12倍すると190,236バーツになります。ただし、これを「賞与込みの平均年収」と呼ぶことはできません。調査の賃金には、時間外手当や賞与などが含まれていないためです。
この記事では、公式統計の対象を確かめたうえで、地域・部門・産業による違いと、日本人向けの掲載求人を読む際の注意点を整理します。統計は2026年第2四半期、求人は2026年9月25日の確認時点です。円換算による為替の影響を混ぜず、金額はバーツで比較します。
全国の平均月額賃金は15,853バーツ。年換算するときの条件

NSOの2026年第2四半期「労働力調査」のTable 18は、雇用者側ではなく、雇われて働く人(employee)が受け取る平均月額賃金を集計しています。全国の値は15,853バーツです。全住民の所得や、自営業者を含むすべての就業者の収入を示す数字ではありません。
ここでいう賃金は、一定の時間または仕事量に対して支払われる基本的な賃金・給与です。報告書の定義では時間外の支払い、賞与、その他の付加給付を除いています。そのため、求人票の「手当込み」「賞与込み」の金額と比較する際は、含まれる項目をそろえる必要があります。銀行口座に振り込まれる手取り額の平均として読むこともできません。
「年収ではいくらか」という疑問に対しては、次の区別が必要です。
| 数字 | 金額 | 意味 |
| 公式統計の平均月額賃金 | 15,853バーツ | 2026年4〜6月の全国の雇われて働く人の平均。整数に四捨五入 |
| 表示月額を12倍した参考値 | 190,236バーツ | 15,853×12という編集部の単純計算 |
| 賞与・時間外手当等を含む年間収入 | この表では算出しない | それらの年間支給額が必要 |
190,236バーツは、表示した月額と同じ金額を12か月受け取ると仮定した参考値です。元データの小数を使った計算ではなく、本文の表示額15,853バーツを使っています。2026年の1月から12月までに実際に受け取った全国平均年収を測ったものではありません。
四半期の月額賃金から通年の受取額を考える場合は、就業した月数、途中の昇給、賞与、時間外手当などが別の情報として必要になります。転職先の給与を比較する際も、入社初年度から12か月分の給与や満額の賞与を受け取れると決めつけないことが大切です。
なお、「平均」は一人ひとりがその額を受け取っているという意味ではありません。この平均値だけでは、ちょうど真ん中の人の賃金である中央値も分かりません。国全体の水準を知るための数字と、自分が応募できる仕事の給与を分けて読むことが出発点になります。
バンコク19,932バーツ、民間14,533バーツ。集計対象で異なる月額賃金

同じ2026年4〜6月でも、地域や雇用部門を変えると平均額が変わります。NSOのTable 18、20、21を使い、対象を分けると次のようになります。いずれも月額、単位はバーツで、小数点以下を四捨五入しています。
| 集計対象 | 平均月額賃金 | 参照表 |
| 全国・全部門 | 15,853 | Table 18 |
| バンコク・全部門 | 19,932 | Table 18 |
| 全国・政府部門 | 21,542 | Table 20 |
| 全国・民間部門 | 14,533 | Table 21 |
全国15,853バーツとバンコク19,932バーツは地域の区分が違います。一方、全国の政府部門21,542バーツと民間部門14,533バーツは、雇用部門の区分が違います。「バンコク」と「民間」を同じ種類の分類として並べたり、政府と民間の平均額を単純に足して2で割った値を全国平均としたりしないようにしましょう。それぞれの集団に含まれる人数は同じとは限りません。
また、これらは異なる人の集団を比較した結果です。同じ人が地方からバンコクへ移れば差額分だけ昇給する、民間から政府部門へ移れば表の金額を受け取れる、という意味ではありません。職務や経験をそろえた転職時の昇給率でもありません。
産業別の全国平均も、同じTable 18で比較できます。
| 全国の産業区分 | 平均月額賃金(バーツ) |
| 製造業 | 14,712 |
| 宿泊・飲食サービス業 | 12,531 |
| 情報通信業 | 29,307 |
ここでの分類は産業です。情報通信業の29,307バーツを「システムエンジニア全員の平均給与」、製造業の14,712バーツを「製造技術者の平均給与」と言い換えることはできません。どの産業で働いているかと、その人がどの職種・役職を担当しているかは別の分類だからです。
統計をメモするときは、金額だけでなく「2026年4〜6月・全国・民間部門・平均月額賃金」のように条件も一緒に残してください。別の資料と比較するとき、対象期間と集団、賃金に含まれる項目が一致しているかを確認できます。国全体の平均を、自分の職種の給与交渉の基準としてそのまま使うことは避けましょう。
日本人向け求人の給与は、全国平均ではなく個別条件と比較する

日本語を使う仕事や、日本での専門経験を求める仕事の募集額は、全国統計と集計対象が異なります。ABROADERS CAREERの公開求人には、次のような募集があります。これは個別の求人例であり、タイで働く日本人全体の平均給与を示すものではありません。
| 掲載求人 | 掲載月給(バーツ) | 必須条件の主な照合点 |
| 日本語オペレーター56177 | 34,500 | 高卒以上、PC入力などの基本操作、タイで長く働く意思、対人・コミュニケーションスキル |
| 倉庫管理70655 | 70,000〜90,000 | 管理者として3年以上、英語日常会話、運転免許。工場管理経験も歓迎 |
| 物流営業73645 | 80,000〜140,000 | 大卒、物流業界の営業4年以上、英語ビジネスレベル以上、英文レジュメ |
オペレーター56177は未経験者も対象とし、英語とタイ語は不問としています。一方、物流営業73645は、英語に加えて物流業界での営業経験を求めています。月給の上限だけを比べても、同じ応募者がそのまま選べる仕事の一覧にはなりません。
倉庫管理70655も、管理者としての経験を条件にしています。倉庫管理が望ましいとしつつ、工場での管理経験がある方も歓迎していますが、経験のない方へ70,000〜90,000バーツを保証する募集ではありません。自分が担当した人員、品質、予算、作業計画などを求人内容と照合して、応募候補を決めてください。
全国の平均月額賃金15,853バーツと、求人の募集額を単純に比べて「日本人なら何倍もらえる」と結論づけることもできません。前者は統計で集計した賃金、後者は特定企業が特定の条件で募集している給与です。企業が実際に提示する金額は、選考後の雇用条件で確かめる必要があります。
仕事を探す段階では、まず必須条件を満たすかを確認し、その候補の中で仕事内容と待遇を比べましょう。タイの求人一覧から募集内容を確認できます。日本人向けの転職市場を広く見たい方は、タイ転職の給与相場を扱う記事も参考にしつつ、個別求人の最新条件を優先してください。
求人56177の賞与開始時期と68807の住宅手当を、年収計算前に確認する

応募できる仕事が見つかったら、求人の給与欄を年間の資金計画へ置き換えます。その際は、固定の基本給、条件付きの手当、賞与を分けます。
オペレーター56177は基本給与34,500バーツに対し、手当を含めて34,500〜42,000バーツ程度と案内しています。基本給与34,500バーツを12か月受け取ると仮定した計算は414,000バーツです。これは本人に提示された年間収入でも、賞与・手当込みの保証額でもありません。上限42,000バーツをすべての月の固定給として計算すると、手当の条件を満たさない場合に予算がずれます。
同求人の業績賞与は、入社2年目以降で出勤率の基準を満たす方が対象です。固定賞与も出勤率等の条件があり、18か月目に8,000バーツ、24か月目以降は半年ごとに10,000バーツという記載です。「固定」という名称だけで入社初年度から全額受け取れると判断せず、対象期間を読んでください。
手当の二重計算にも注意が必要です。日系SIベンダーのSE68807は、家賃補助月10,000バーツを記載していますが、掲載給与にはその補助が含まれると明記しています。掲載月給にさらに月10,000バーツを加え、12か月分として120,000バーツ上乗せすると、同じ手当を二度数えることになります。
比較表には、次の項目を分けて記入します。
| 確認する項目 | 求人・内定条件で見る内容 |
| 固定給与 | 基本給と、毎月固定で支給する手当の範囲 |
| 手当の内数・外数 | 掲載月給に含まれるか、別途支給か |
| 変動手当 | 夜勤・残業・出勤状況などの支給条件 |
| 賞与 | 保証額か業績実績か、支給対象となる勤続期間 |
| 初年度の対象月 | 入社月と給与支給日、試用期間中の条件 |
| 控除 | 税金や社会保険など、提示額から差し引かれる項目 |
会社が所得税を負担するといった個別の待遇がある場合も、他社の掲載給与に同じ扱いを当てはめないでください。固定給与の年換算と、賞与等を含む見込み、実際の手取りを別の欄に置くと、比較の前提を確かめやすくなります。
タイの平均年収を調べるときは、まず公式統計の対象と賃金の定義を確認します。そのうえで自分の転職について考える際は、応募できる求人の必須条件と、実際の支給項目・期間へ戻りましょう。国全体の水準を知ることと、自分の年間収入を見積もることの両方に、比較対象をそろえる作業が必要です。
出典:タイ国家統計局「労働力調査・2026年第2四半期」Table 18・20・21および賃金の定義。公式集計Excel。掲載求人:ABROADERS CAREER(求人掲載元Reeracoen Thailand)。2026年9月25日確認。求人の募集継続状況・条件は応募時に確認してください。