
カンボジアで働く日本人は、いまどのくらいいるのでしょうか。外務省「海外在留邦人数調査統計」によると、2024年10月1日時点のカンボジア在留邦人は3,012人で、国別では31位です。前年の3,215人から6.3%減り、減少は4年連続となりました。ピークだった2020年の5,057人に比べると約4割少ない水準であり、「経済成長が続く新興国」というイメージと、現地の日本人コミュニティの実際の規模には差があります。
本記事では、カンボジアで働くことを検討している方に向けて、ビザと労働許可証(ワークパーミット)の実務、プノンペンの産業構造、生活とリスク、そして近隣国との比較までを、公的情報にもとづいて整理します。赴任の打診を受けて現地の実態を調べている方にも、東南アジアでの現地採用を視野に入れている方にも判断材料になるよう、数字には出典と時点を添えました。
カンボジアで働く日本人のリアル──市場の規模と働き方の構造
在留邦人数と日系企業数で見るカンボジアの現在地

まず人の数から確認します。カンボジアの在留邦人は2020年の5,057人をピークに減少へ転じ、2024年10月1日時点では3,012人でした(外務省「海外在留邦人数調査統計」)。在留届を提出せずに滞在している人も一定数いるとみられるため、実際の日本人の数はこれより多い可能性がありますが、統計上は4年連続の減少です。国の概況とあわせて確認したい方は、外務省のカンボジア王国基礎データが出発点になります。
企業の側はどうでしょうか。カンボジア日本人商工会(JBAC)の登録企業数は、2025年3月時点で254社です(カンボジア日本人商工会資料)。進出済みの企業の目線では、在カンボジア日系企業の58.2%が「税制・税務手続きの煩雑さ」を投資環境上のリスクとして挙げています(ジェトロ「2024年度 海外進出日系企業実態調査」)。なお、2024年7月には租税総局の傘下に特別税務調査機関(STAU)が創設されています。
マクロ経済の数字は良好です。2024年の実質GDP成長率は6.0%で、前年の5.0%から加速しました(IMF)。同年は輸出が前年比15.7%増、外国人観光客は前年比22.9%増の670万人となりました(ジェトロ「カンボジアの貿易投資年報」)。ただし建設・不動産セクターは低迷が続いており、2024年末の不良債権比率は銀行で7.9%、マイクロファイナンス機関で9.0%と、いずれも過去最高の水準に達しました(カンボジア国立銀行)。産業別の詳しい動向はJETROの貿易投資年報で毎年更新されているため、検討の際は最新版をあわせて確認してください。
注意
カンボジアの経済成長率は高い水準を保っていますが、在留邦人数は4年連続で減少し、建設・不動産セクターは低迷が続いています。マクロの成長率と、日本人にとっての就業機会の多寡は別の指標です。渡航を検討する際は、両方を分けて確認してください。
駐在員・現地採用・起業──3つの入り方

カンボジアで働く日本人の働き方は、大きく3つに分かれます。日本本社に籍を置いたまま赴任する駐在員、カンボジア法人に直接雇用される現地採用、そして自ら事業を興す起業・自営です。
駐在員は、日本本社との雇用関係を保ったまま現地法人や支店に出向く形です。日本と現地の二か所で給与が支払われる、住宅補助や一時帰国費用が会社負担になるなど、待遇のパッケージが手厚いケースが多く、赴任の打診を受けている方は、まず自社の海外赴任規程で何がどこまでカバーされるかを確認することになります。
現地採用は、カンボジアの法人と直接雇用契約を結ぶ働き方です。ポジションによっては若いうちから大きな裁量を持てる一方、住宅・医療・帰国費用といった福利厚生は会社ごとの差が大きく、募集要項と雇用契約の内容を個別に確認する必要があります。両者の契約形態や待遇の違いは、駐在員と現地採用の違いの解説で詳しく説明しています。
起業・自営の場合も、労働許可証の制度と無関係ではありません。2023年12月28日付の「外国人雇用主への外国人労働許可の付与についての指導」(第110号)では、パテント証明書上の名義人が外国人である場合と、自営業者が外国人である場合に、労働許可証の取得が必要と整理されています。一方、外国人の株主および取締役は、ビザを所持していない限り労働許可証の取得は不要です。いずれの入り方を選ぶにしても前提になるのが、次章で扱うビザと労働許可証の手続きです。
カンボジアの就労ビザと労働許可証【最新の手続き】

カンボジアには「就労ビザ」という単独の区分がなく、働くための許認可は1枚の書類では完結しません。JETROの「外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用(カンボジア)」(2025年8月25日更新)によると、就労にはビジネスビザ(E)の延長、労働許可証、雇用カード、居住許可の4点が必要で、いずれも1年ごとの更新が求められます。この章では、ビザの取得・延長の流れと、労働許可証の制度を順に整理します。
ビジネスビザ(E)からEBへ──取得と延長の流れ
入国からビザ延長までの流れは次のとおりです(JETRO 2025年8月25日更新の情報にもとづきます)。
- 入国前のビザ取得:通常は観光ビザ(T)またはビジネスビザ(E)を取得します。取得方法は、在日本カンボジア大使館・名誉領事館の窓口のほか、オンライン(e-Visa/Cambodia e-Arrival)、到着時の国際空港・国際港での申請です。到着時取得の手数料は、観光ビザが30米ドル(シングル)、ビジネスビザが35米ドル(シングル)で、就労を予定している場合はビジネスビザを選びます。
- 長期ビザとの違い:1年・2年・3年の長期ビザは、期間内の入国回数に制限がない一方、入国1回あたりの滞在は最長30日です。短期出張を繰り返す人向けの区分であり、継続滞在には使えません。
- 入国後の延長:30日を超えて滞在する場合は、ビジネスビザで入国したうえで出入国管理総局で延長します(延長後のビジネスビザは一般にEBと呼ばれます)。延長期間は1カ月(シングル)、3カ月(シングル)、6カ月(数次)、12カ月(数次)の4種類で、長期ビザと異なり延長期間中は継続滞在が可能です。
- 延長に必要な書類:パスポート、雇用主が作成した雇用証明書、雇用主のパテント証明書のコピー、外国人労働許可証(2022年10月から必須)、カンボジア外国人滞在情報のコピーが必要です。労働許可証がまだない場合の延長は、初回のみ最大6カ月までに制限されます。
- FPCSへの登録が前提:2020年7月から、延長申請者は「カンボジア外国人滞在システム(Foreign Present in Cambodia System:FPCS)」に登録済みであることが条件になりました。登録を行うのは本人ではなく、滞在する物件の所有者などです。住居を契約する時点で、登録に協力してもらえるかを確認しておいてください。
- e-Arrivalとv-Pass:2024年9月1日からCambodia e-Arrivalが正式運用され、到着日の7日前から手続きできます。さらに2025年7月1日からはv-Pass(Visitor Pass)の試験運用が始まり、空路入国では出入国情報が電子化されて、パスポートへのスタンプとQRコードステッカーは廃止されました。
労働許可証と外国人雇用枠の制約

ビザの延長と並ぶもう1つの柱が労働許可証です。労働許可証を所持しない外国人は就業できないと労働法第261条で定められており、発行は労働職業訓練省の管轄です。制度の全体像はJETROの外国人就業規制・在留許可の解説ページで確認できます。
雇用する側には人数の枠があります。2014年8月20日付の労働職業訓練省令第196号により、企業が雇用できる外国人はカンボジア人労働者数の10%以下(内訳は事務労働者3%、専門性を有する肉体労働者6%、専門性のない肉体労働者1%)とされています。ただし現在の実務上は超過分についても割当を受けることが可能で、カンボジア人労働者が0〜9人の企業は、無条件で外国人1人分の割当を受けられます。
手続きは2段階です。まず前年のうちに従業員割当(Quota)を申請し(例年9〜11月)、そのうえで労働許可証の発行を申請します。いずれも労働職業訓練省のオンラインシステムFWCMS(Foreign Worker Centralize Management System)を通じた申請が必須です。申請には、パスポート情報・ビザ情報・身長・連絡先・最終学歴のほか、労働職業訓練省に登録された雇用契約書、健康診断証明書、写真、居住証明書(入手可能な場合)が必要です。
費用は、2025年3月13日付の経済財政省・労働職業訓練省共同省令第193号で次のように定められています。
- 雇用契約書の登録:4万リエル(約10米ドル)
- 従業員割当:年20万リエル(約50米ドル)
- 労働許可証の発行:年52万リエル(約130米ドル、システム費用30米ドルを含む)
- 労働医療局での健康診断:10万リエル(約25米ドル)。民間病院の診断書を認証する場合は2万リエル(約5米ドル)
罰則は軽くありません。労働許可を受けずに就労した場合の罰金は、1日あたり20万リエル(約50米ドル)×252日分=5,040万リエル(約1万2,600米ドル)に達します。従業員割当を申請しなかった場合や、労働許可を持たない外国人を雇用した場合は、いずれも20万リエル×63日分=1,260万リエル(約3,150米ドル)です。同一の罰則が適用される違反が複数ある場合、罰金額は5倍を上限に違反数に比例して増えます(労働法第383条1項)。
ここがポイント
カンボジアで働くために必要なのは、ビジネスビザの延長・労働許可証・雇用カード・居住許可の4点です。手続きは原則として雇用主が主体となって進めますが、労働許可なしで就労した場合の罰金は約1万2,600米ドルに達します。内定時に、雇用契約書へビザと労働許可の手続きに関する記載があるかを必ず確認してください。
制度は変更される場合があります。渡航前に最新の情報をご確認ください。
プノンペンの産業構造と、日本人に開いている職種
「求人が増えているか」よりも先に押さえるべきなのは、どの産業に、どのような性格の仕事があるかという構造です。カンボジア経済は、縫製・履物を中心とする輸出型製造業、観光、建設・不動産、金融の4本柱で構成されており、日本人に開いているポジションは、この産業構造から逆算するとはっきり見えてきます。この章では、主要セクターの現状と、その中で日本人が担う職種を整理します。
縫製・SEZ/建設・不動産/金融/BPO・IT

縫製・履物・旅行用かばん:カンボジア最大の輸出産業です。2026年1月1日から適用される最低賃金は月額210米ドル(試用期間は208米ドル、2025年9月17日付省令第214号)で、経緯は労働政策研究・研修機構の解説にまとまっています。注意したいのは、この金額はあくまで現地ワーカーの法定下限であり、日本人求職者の給与水準を示すものではない点です。日本人が就くのは、生産管理・品質管理・工場マネジメントといった、現地スタッフを束ねる側のポジションが中心になります。
通商環境の変化:米国はカンボジア最大の輸出先で、全輸出額の約38%を占めます。米相互関税は2025年4月発表の49%から段階的に引き下げられ、7月31日の大統領令で19%(8月7日適用)となりました。カンボジア側も、米国からの輸入品への関税を0%とする政令に署名しています(JETROビジネス短信)。それでも縫製業では、価格競争力の低下による輸出量の減少が懸念されており、この構造は縫製業界の求人数に直結します。
建設・不動産:低迷が続いています。シアヌークビルを中心に、中国資本による商業施設・ホテル・高層ビルへの投資がコロナ禍を機に停止し、未完成・休眠のまま放置されている物件が多数残っています。中国国内の不動産市況が回復していないため、資本の回帰も起きていません。
金融:カンボジア国立銀行によると、2024年末の不良債権比率は銀行で7.9%、マイクロファイナンス機関で9.0%と、いずれも過去最高です。建設・不動産の低迷が、金融セクターのリスクを高めている構図です。
BPO・IT:プノンペンには日本語対応のBPO拠点が存在します。ただし規模は限定的です。
営業・セールスエンジニアに実際に求められるもの

カンボジアの日系企業は規模の小さい拠点が多く、営業とセールスエンジニアの職務が分離していないことが一般的です。技術説明から見積、納期調整、現地スタッフの指導まで、1人で担うケースが実態に近いと考えてください。
実務言語は英語です。公用語はクメール語ですが、外資系・日系のビジネス現場では英語が共通語になります。クメール語は必須ではないものの、現地スタッフとの関係構築で効いてきます。
もう1つ重要なのが、前章で説明した外国人雇用枠との関係です。枠の制約上、「カンボジア人でも務まる仕事」では労働許可が下りにくく、そのポジションになぜ外国人が必要なのかという専門性を説明できることが、そのまま在留資格の要件になります。応募の段階から、自分の職務を専門性の言葉で語れるように準備しておく必要があります。
なお、東南アジアで営業・セールスエンジニアの募集が最も厚いのはタイで、次いでベトナムです。カンボジアと同じく日系企業の顧客が中心でありながら、職務の分化の度合いと求人の絶対数が大きく異なります。実情を掴むには、まずタイの営業・セールスエンジニア求人を見るのが早道です。あわせてベトナムの営業・セールスエンジニア求人を見ると、市場ごとの募集の厚みの差が実感できます。職務内容の具体像はタイの営業・セールスエンジニア転職ガイドが参考になります。アジア全体ではアジアの日系企業で働く営業職の特集もあわせてご覧ください。
なお、ABROADERS CAREERでは現時点でカンボジアの求人を取り扱っていません。本記事は求人のご紹介ではなく、カンボジアで働くという選択肢を検討するための情報として整理したものです。近隣国の募集状況は、上で紹介したタイやベトナムの求人ページからご覧いただけます。
渡航前に押さえる生活・リスクと、近隣国との比較検討


カンボジアで暮らすという判断と、近隣国も含めて選び直すという判断。この章では、その両方を決めるために必要な材料を整理します。
プノンペンの生活費・住環境
プノンペンの生活でまず押さえておきたいのは、通貨の使われ方です。カンボジアでは米ドルが事実上流通しており、給与も家賃も米ドル建てが一般的です。自国通貨のリエルは、少額の決済に使われます。この二重通貨の構造はタイやベトナムと異なり、収入と支出の大半を米ドルで受け取ることになるため、為替リスクの受け方が変わります。
生活費の具体的な金額は、本記事ではあえて示しません。為替と物件のグレードによって幅が大きく、一次情報にもとづく信頼できるレンジを提示できないためです。物価の感覚はカンボジアの物価についてのFAQを参考にしつつ、最終的には内定先の提示条件と現地の実勢で確認してください。
医療も渡航前の確認事項です。プノンペン市内で対応できる医療には限りがあり、高度な治療はタイ(バンコク)への搬送が前提になるケースがあります。海外旅行保険・医療保険の補償範囲に緊急搬送が含まれているかを、渡航前に確認しておいてください。
治安・カントリーリスクの現在地
2025年以降のカンボジアで最大のリスク要因は、タイとの国境情勢です。2025年5月28日の軍事衝突を起点に、6月にはタイ側が国境を閉鎖しました。7月24日には大規模な衝突に発展し、双方に民間人を含む死傷者と大規模な避難民が生じています。7月28日に即時・無条件の停戦で合意し、10月26日にはクアラルンプール共同宣言が署名されましたが、12月に戦闘が再燃し、12月27日に再び停戦合意に至りました。
外務省のカンボジア危険情報(2026年2月9日更新)では、タイ国境から50km以内でレベル3(渡航中止勧告)が継続しています。50kmを超え80km以内はレベル1に引き下げられ、それ以外の全土はレベル1です。両国の国境地帯では、重火器の撤収は進んでいません。危険レベルは随時更新されます。渡航前に必ず最新の情報をご確認ください。
プノンペン勤務であれば国境地帯からは離れていますが、陸路の移動と物流には影響が残っています。JBACは、物流コストの上昇について政府との協議を続けています。
「高額報酬の求人」には、これとは別のリスクがあります。カンボジアは国際的な特殊詐欺・オンライン詐欺の拠点問題を抱えており、詐欺拠点で日本人が拘束される事案が相次いでいます。入口の多くはSNS上の「短期間で高額報酬」をうたう募集で、「1泊2日で数十万円」といった条件は、正規の就労では成立しません。
外務省は2025年12月16日、広域情報として「特殊詐欺についての注意喚起」と「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)を含めた犯罪組織による海外における闇バイトに関する注意喚起(加害者にならないために)」を発出しています。正規の就労は、本記事のビザと労働許可証の章で示した手続きを必ず経ます。労働許可証と雇用契約書の話が出てこない募集、パスポートを預けるよう求める募集、渡航してから業務内容を説明するという募集は、いずれも正規の雇用ではありません。在カンボジア日本国大使館には、連絡が取れなくなった家族についての相談が継続的に寄せられています。
注意
カンボジアで正規に就労する場合、ビジネスビザの延長と労働許可証の取得が必ず伴います。労働許可証や雇用契約書の説明がないまま渡航を促す募集、渡航後に業務内容を伝えるという募集は、正規の雇用ではありません。判断に迷う場合は、渡航前に在カンボジア日本国大使館または外務省の海外安全ホームページで最新の注意喚起をご確認ください。
タイ・ベトナムとの比較──カンボジアを選ぶ/選ばない判断軸
東南アジアの他の選択肢と比べたときの判断軸を整理します。軸になるのは数値の優劣ではなく、何を優先するかです。
カンボジアを選ぶ理由になり得るのは、次のような点です。日系企業の数が少ないぶん、1人あたりの裁量が大きいこと。給与が米ドル建てであること。そして、立ち上げ期の事業に初期メンバーとして関われることです。
一方で、選ばない理由になり得る点もはっきりしています。求人の絶対数が少ないこと。在留邦人が減少傾向にあること。国境情勢と建設・不動産の低迷という不確実性を抱えていること。そして、医療の選択肢が限られることです。
比較対象になるのはタイとベトナムです。組織の整った環境で職種を絞って働きたい方にはタイの求人が最有力の候補で、待遇の感覚は日本と比較したタイの給与相場のFAQが参考になります。成長市場の勢いを優先するならベトナムの求人が候補になります。なお、カンボジアの実務で通用する英語力は、そのまま他国でも通用します。英語を使って働ける求人の特集も、選択肢を広げる材料にしてください。
カンボジアに関する他の記事は、カンボジア関連コラムの一覧にまとまっています。渡航するかどうかの判断は急がず、最新の公的情報と照らし合わせながら検討してください。
本記事は2026年8月時点の公開情報にもとづいて作成しています。カンボジアのビザ・労働許可制度、危険情報、通商条件はいずれも変更される可能性があります。手続きの詳細および最新の要件は、各公的機関の公式サイトでご確認ください。