現地採用のメリット・デメリットは、シンガポールとタイで中身が変わる
現地の会社に直接雇われて働く場合の良し悪しは、一般論だけでは決まりません。働く国によって、何がメリットで何がデメリットになるかが入れ替わるからです。たとえば「給与が日本より下がる」というデメリットは、タイでは当てはまりやすい一方、シンガポールでは営業職の求人が月80万円前後から始まります。この記事では、本サイトに掲載中の求人(シンガポール63件、タイ213件、2026年10月22日時点)と、両国の公的機関が定める制度を同じ物差しで並べることで、どちらの国が自分に合うかを判断する材料をそろえます。
| 比べる項目 | シンガポール | タイ |
|---|---|---|
| 掲載中の求人数 | 63件 | 213件 |
| 「現地採用社員活躍中」の求人 | 11件(約17%) | 53件(約25%) |
| 営業職の平均給与レンジ(月額) | 6,814〜10,164シンガポールドル(約84万〜126万円) | 67,500〜108,750バーツ(約32万〜51万円) |
| 法定の年次有給休暇 | 7日から(勤続に応じて最大14日) | 6日以上(勤続1年後から) |
| 法定の祝日 | 年11日 | 年13日以上 |
| 給与から引かれる社会保険 | 外国人は中央積立基金(CPF)の対象外 | 5%(月875バーツが上限) |
| 個人所得税の最高税率 | 24% | 35% |
| 在留邦人数(2025年10月1日) | 33,397人 | 72,113人 |
※求人データは本サイト掲載分(2026年10月22日時点)。円換算は2026年10月22日の三菱UFJ銀行公示相場(TTSとTTBの中間値:1シンガポールドル≒123.89円、1バーツ≒4.71円)。制度と在留邦人数の出典は各章に記載しています。
現地採用とは:雇用契約の相手が現地の会社になる働き方
現地の会社(日系企業の現地法人を含む)と直接雇用契約を結び、給与を現地通貨で受け取り、社会保険と税も現地の制度に沿う働き方です。日本の会社に籍を残したまま派遣される駐在員とは、給与の支払い元・社会保険・会社都合の異動の有無が違う点が大きな差になります。
駐在員との待遇差は、タイの駐在員との待遇差を求人データで比べた記事と駐在採用との違い(よくある質問)で詳しく解説しています。この記事では、国ごとの条件の違いに絞って見ていきます。同じ働き方でも、何が利点で何が負担になるかは、国ごとに中身が入れ替わります。
ここがポイント
同じ現地採用でも、シンガポールは給与の額面が高く税と社会保険の負担が軽い一方、求人の数が少なく英語が前提です。タイは求人が多く語学力不問の求人もありますが、額面は日本より下がりやすくなります。どちらのデメリットなら受け入れられるかで選ぶのが近道です。
求人の数と入口を比べると、タイのほうが間口は広い
本サイトに掲載中の求人は、タイ213件、シンガポール63件で、3倍以上の差があります(2026年10月22日時点)。日系企業の求人もタイが135件(約63%)、シンガポールが29件(約46%)と、タイのほうが多く集まっています。すでに現地に住んでいる人を歓迎する求人も、タイ85件に対してシンガポールは18件です。まずはタイの求人一覧とシンガポールの求人一覧で、希望に近い求人がどれだけあるかを確かめてみてください。
職種の偏り:シンガポールは金融・企画系、タイは営業と製造系
職種の分布にも違いがあります。シンガポールの掲載求人は、財務・会計・金融専門職が約27%で最も多く、営業、企画/事務/マーケティング、コンサルティングがそれぞれ約23%で続きます。タイは営業が約41%を占め、企画/事務/マーケティングが約17%、生産・製造・品質エンジニアが約10%です。
シンガポールは地域統括や金融の専門性を持つ人、タイは製造業の現場や営業の経験を持つ人にとって入口が広いといえます。同じ営業職でも条件は国によって異なるため、シンガポールの営業職の求人とタイの営業職の求人を並べて比べてみましょう。
語学条件:英語が前提のシンガポール、語学力不問もあるタイ
シンガポールでは、英語力を活かせる求人が約27%を占めます。日常会話レベルの英語で応募できる求人は8件、語学力不問は1件だけで、英語を使う前提で探すことになります。一方タイは、語学力不問の求人が34件、日常会話レベルの英語で応募できる求人が28件あります。英語に自信がない段階で選べる求人の数は、タイが大きく上回ります。
英語力に合わせて、日常会話レベルの英語で応募できるシンガポールの求人や語学力不問のタイの求人から探せます。英語を武器にしたい人は、シンガポールで英語力を活かせる求人特集もあわせてご覧ください。
給与と暮らし:額面はシンガポール、日本人の多さはタイ
給与の額面はシンガポールが高く、日本人の暮らしの厚みはタイが上回ります。ここでは、職種ごとの給与レンジと在留邦人数を、順に数字で見ていきます。
主要職種の給与レンジを円で並べる
| 職種 | シンガポール(月額) | タイ(月額) |
|---|---|---|
| 営業 | 約84万〜126万円 | 約32万〜51万円 |
| 企画・事務・マーケティング | 約79万〜138万円 | 約32万〜49万円 |
| その国で3番目に多い職種 | 財務・会計:約87万〜140万円 | 生産・製造・品質:約46万〜67万円 |
※本サイト掲載求人の職種別平均給与レンジ(2026年10月22日時点)を、2026年10月22日の公示相場で円換算。シンガポールは営業6,814〜10,164、企画6,381〜11,150、財務7,034〜11,313シンガポールドル。タイは営業67,500〜108,750、企画68,750〜104,286、生産・製造・品質97,727〜142,727バーツ。
同じ営業職でも、額面はシンガポールがタイの約2.5倍です。ただしシンガポールは家賃や物価も高く、額面の差がそのまま生活の余裕になるわけではない点に注意が必要です。生活費を含めた目安は、日本と比べたシンガポールの給与相場(よくある質問)と日本と比べたタイの給与相場(よくある質問)で確認できます。
タイでは、生産・製造・品質の技術職が営業より高く、職種による差が大きいのも特徴です。シンガポールの給与水準を周辺国と比べたい場合は、シンガポールの給与水準をアジア各国と比べた記事も参考になります。
在留邦人数:タイは約7.2万人、シンガポールは約3.3万人
外務省の海外在留邦人数調査統計(2025年10月1日現在)によると、在留邦人数はタイ72,113人(うちバンコク51,297人)、シンガポール33,397人で、タイはシンガポールの2倍を超えます。一方、永住者はシンガポールが4,848人、タイが2,733人です。シンガポールは、長く住み続ける日本人の割合が高いといえます。
日本人が多いほど、日本語で通える病院や日本食材の店など生活の選択肢が増え、日系企業の求人の多さにもつながります。日本人の暮らしやすさを重視するなら、タイの厚みは大きな判断材料になります。
ここがポイント
給与の額面を優先するならシンガポール、求人の選択肢と日本人の暮らしやすさを優先するならタイ。ただし額面の差は家賃や物価でも縮まるため、次の章の手取りとあわせて判断します。


手取りを削るもの:社会保険と所得税はシンガポールのほうが軽い
額面の給与を比べるだけでは、手元にいくら残るかはわかりません。給与から引かれる社会保険と所得税の仕組みが、国によって大きく異なるからです。ここでは、シンガポールとタイの天引きと税の仕組みを順に見ていきます。
シンガポール:中央積立基金の対象外、所得税は累進で最高24%
シンガポールでは、国民と永住者の給与から中央積立基金(CPF)への拠出金が天引きされます。一方、中央積立基金庁による拠出対象外の説明(英語)のとおり、外国人は拠出の対象外です。そのため、社会保険による天引きはありません。
PwCによるシンガポール個人所得税の税率表(英語)によると、所得税は居住者であれば累進税率で、課税所得2万シンガポールドルまでは0%、最高税率は24%です。居住者かどうかは暦年の滞在・勤務日数で決まり、183日以上が目安です。届かない年は非居住者として扱われ、給与には「15%」と「居住者の税率」の高い方がかかります。年をまたいで続けて働く場合の特例もあるため、入社時期によっては会社の人事担当に個別に確認しましょう。
タイ:社会保険5%と、最初の15万バーツまで非課税の累進税率
タイの社会保険(SSO)は、本人と会社がそれぞれ給与の5%を負担します。JETROによるタイ社会保険料の上限引き上げの解説によると、2026年から計算に使う賃金の上限が17,500バーツに上がり、本人負担は月875バーツが上限です(2029年からは1,000バーツ)。
PwCによるタイ個人所得税の税率表(英語)によると、所得税は累進税率で、課税所得15万バーツまで非課税、最高税率は35%です。暦年に180日以上滞在すると、税務上の居住者になります。
会社が任意で用意する医療保険や積立制度は、企業によって差があります。詳しくはタイの現地採用の福利厚生と社会保険をまとめた記事で確認してください。
同じくらいの役職の求人を想定して、1年間の負担を試算すると次のとおりです。
| 試算の項目 | シンガポール(月7,000シンガポールドル) | タイ(月8万バーツ) |
|---|---|---|
| 年間の額面 | 84,000シンガポールドル(約1,041万円) | 960,000バーツ(約452万円) |
| 社会保険(本人負担・年) | なし | 10,500バーツ(約4.9万円) |
| 所得税(年・居住者) | 約3,810シンガポールドル(約47万円) | 約72,900バーツ(約34万円) |
| 額面に対する所得税の割合 | 約4.5% | 約7.6% |
| 滞在日数が足りず非居住者になった年 | 15%:12,600シンガポールドル(約156万円) | 本表では試算していません |
※シンガポールは控除を差し引かずに居住者税率で計算した概算。タイは給与所得控除(50%、上限10万バーツ)、基礎控除(6万バーツ)、社会保険料控除のみを差し引いた概算。税率と控除はPwC Tax Summaries(2026年7月・8月レビュー)による。賞与や扶養などで実際の税額は変わります。円換算は2026年10月22日の公示相場。
注意
シンガポールで税負担が軽いのは、居住者として扱われる年の話です。入社した年の滞在・勤務が183日に届かないと、給与に15%か居住者の税率の高い方がかかり、試算では税額が3倍以上になります。入社時期と初年度の手取りは、内定前に試算しておきましょう。
休暇と労働時間:法定の最低ラインと、求人票に書かれた実態
休みやすさは、「法律で決まった最低ライン」と「会社ごとの上乗せ」の2段で見ると比べやすくなります。まず両国の法定の最低ラインを並べ、次に求人票の休日欄から実態を確かめます。
有給・祝日・労働時間の法定ラインを並べる
| 法定の最低ライン | シンガポール | タイ |
|---|---|---|
| 年次有給休暇 | 勤続3か月以上で7日。毎年1日増え、8年目以降は14日 | 勤続1年後に6日以上 |
| 祝日 | 年11日 | 年13日以上 |
| 労働時間の上限 | 週44時間(管理職・専門職は対象外) | 週48時間以内 |
※シンガポールはシンガポール人材省(雇用法)、タイは労働者保護法による。
祝日はタイが年13日以上とシンガポールより多く、有給休暇は勤続が長くなるほどシンガポールが有利です。シンガポールの規定は、シンガポール人材省の年次有給休暇の規定(英語)とシンガポール人材省の祝日に関する規定(英語)で確認できます。
注意したいのは、シンガポールの週44時間の上限です。労働時間の上限と適用範囲(シンガポール人材省、英語)によると、この上限は雇用法の一部の規定で、管理職・専門職(managers and executives)には適用されないものです。日本人を採用するポジションはこれに当たることが多いため、労働時間と残業の扱いは雇用契約で確認するようにしましょう。
なお、法定はあくまで最低ラインです。日系企業を中心に、有給や休日を上乗せしている会社も多くあります。会社ごとの上乗せは、次の求人票の休日欄で確かめます。
求人票の休日欄に出る差
本サイトの掲載求人(2026年10月22日時点)を見ると、タイの求人票は「土日祝休み」「年間休日115日」など休日の記載が多く、年間休日は100〜126日の幅があります。隔週土曜出勤の求人もあり、年間休日120日以上と明記した求人は12件です。
一方、シンガポールの求人票は休日欄が空欄のものがほとんどで、求人票だけでは比べられません。シンガポールは、面接や内定時の条件提示で年間休日・有給日数・勤務時間を確かめましょう。タイは求人票の休日欄で絞り込めるため、年間休日120日以上のタイの求人や働きやすさを重視したタイの求人特集から探すのが近道です。
ここがポイント
祝日の多さはタイ、勤続による有給の伸びはシンガポールが有利です。ただしシンガポールでは労働時間の上限が管理職・専門職に適用されないため、休みやすさは求人票ではなく雇用契約の記載で判断します。
シンガポールとタイ、どちらで働くかを決める目安
ここまで、求人の数と入口、給与と暮らし、手取り、休暇と労働時間の4つの物差しで両国を比べてきました。最後に、どんな人にどちらの国が合うかの形でまとめます。
シンガポールが合う人
シンガポールが合うのは、英語で実務を進められ、金融・会計・企画・コンサルティングなどの専門性がある人です。額面の給与が高いことに加え、社会保険の天引きがなく、居住者なら所得税の負担も軽い点を重視する人に向いています。
一方で、求人は63件と少なく、語学力不問の求人はほぼありません。入社した年の滞在日数で税負担が大きく変わる点や、休日と労働時間を雇用契約で確かめる必要がある点にも注意しましょう。中心部の求人は、シンガポール・シティー(中心業務地区)の求人から確認できます。
タイが合う人
タイが合うのは、製造業の現場や営業の経験を活かしたい人や、英語に自信がなくても選択肢を持ちたい人です。祝日の多さ、日本人の多い暮らしやすさ、求人数の多さを重視する人にも向いています。
ただし、額面の給与は日本より下がりやすく、職種による差も大きくなります。また、会社が任意で用意する福利厚生は会社ごとに大きく違うため、医療保険や手当の内容は内定前に確認しておきましょう。


要点まとめ
シンガポールは額面が高く、社会保険の天引きがなく、居住者なら所得税も軽い一方、求人が少なく英語が前提で、初年度の税と休日は契約で確かめる必要があります。タイは求人数・語学条件・祝日・日本人の多さで有利ですが、額面は日本より下がりやすくなります。自分が受け入れられるデメリットから国を選ぶのが確実です。
※駐在との違いを一般論で整理したい方は、他社による駐在との比較解説も参考になります。
筆者からのコメント
並べてみると、『現地採用は給与が低い』『定時で帰れる』といった一般論は、どちらの国にもそのまま当てはまらないことがわかります。数字は2026年10月時点のものです。応募前には最新の求人票と各国の公的情報を確認し、気になる条件は面接で遠慮なく質問してください。