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タイで会計・税務・総務に転職|100人面接した元所長が見た「採用される人・落ちる人」

目次

    タイで会計・税務・総務職への転職を考えるとき、ネット上の情報の多くは「求人サイトを使え」「タイ語を学べ」「ビジネスマナーを守れ」といった一般論に終始しがちです。しかし、実際にバンコクで採用責任を負ってきた人が「面接の3分以内に何を見ているのか」を語った情報は、ほとんど存在しません。

    本コラムでは、タイの会計・税務・総務職をめぐる業界構造給与レンジの現実を客観的に整理した上で、後半にバンコクで日系会計事務所を10年経営し、100人以上のタイ人経理候補者を面接してきた木之本氏への独占インタビューを掲載します。

    これからタイへ渡る方、すでにタイで働きながら次のキャリアを考えている方、そしてタイで採用責任を負っている駐在員の方にも、必ず参考になる内容です。

    タイの会計・税務・総務職をめぐる現場の構造

    日系企業・日系会計事務所・外資系の3つの主戦場

    タイで会計・税務・総務職を募集する企業は、構造的に3つに大別されます。

    1つ目はタイに進出している日系の事業会社です。製造業、商社、不動産、飲食、小売、ITなど業種は多岐にわたり、バンコクと近郊工業団地(チョンブリ、アユタヤ、ラヨーンなど)に集中しています。バンコク日本人商工会議所には約1,670社もの会員企業が在籍しており、東南アジア最大の日系企業集積地となっています。これらの企業の経理・財務部門では、現地法人の月次決算からタイ本社・日本本社向けレポーティング、現地スタッフのマネジメントまでを一貫して担当する人材が求められます。

    2つ目は日系の会計事務所・税務事務所です。タイには日本人駐在員社長が経営する中小企業が多数存在し、そのほとんどが現地の会計・税務処理を会計事務所にアウトソースしています。会計事務所側では、日本人スタッフがクライアント担当(コーディネーター)として日本人社長と現地スタッフの橋渡しをし、タイ人スタッフが実際の記帳・申告業務を担う体制が一般的です。リトルトーキョーとも呼ばれるタイの日系企業環境を支える、いわば日系インフラの中核です。

    3つ目は外資系企業のシェアードサービスセンター(SSC)や日本企業のリージョナル拠点です。タイは英語人材の確保とコスト水準のバランスから、東南アジア全域のバックオフィス機能を集約する拠点として選ばれることが増えています。ただしこの領域は英語力が必須で、日本人候補者の選択肢は相対的に限られます。

    日本人現地採用者がもっとも採用されやすいのは、1つ目と2つ目です。本コラムも主にこの2領域を念頭に解説します。JETROのタイ国別ビジネス情報バンコク日本人商工会議所の景気動向調査でも、これらの領域での人材ニーズは継続的に高水準で推移していることが確認できます。

    タイ人スタッフ中心の組織で日本人が果たす役割

    タイの会計・税務・総務組織は、大半のスタッフがタイ人で構成されています。日系企業の経理部門でも、日系会計事務所でも、日本人は「マネジメント層」または「日本人クライアント対応の専門ポジション」に限定的に配置されるのが通例です。

    これは単純なコスト構造の問題です。タイ人経理スタッフの給与水準は日本人現地採用者の数分の一であり、日本人を実務処理スタッフとして雇うことは経済合理性に合いません。それでも企業が日本人を採用する理由は明確で、日本本社や日本人駐在員社長との橋渡しタイ人スタッフへの教育・指導日本基準と現地基準の差を理解した判断――この3つの価値を求めているからです。

    つまり日本人候補者には、入社初日から「ある程度マネジメント目線で働く」ことが暗黙的に期待されます。これは新卒・若手にとってチャンスでもあり、同時に責任の重さでもあります。

    要点まとめ

    まとめアイコン

    タイの会計・税務・総務職市場は、日系事業会社・日系会計事務所・外資系SSCの3領域に大別される。日本人が採用されるのは主に前2者で、タイ人スタッフ中心の組織における橋渡し役・指導役としての役割が期待される。

    日本人現地採用者に求められるもの

    給与レンジと業務範囲のリアル

    タイで日本人として会計・税務・総務職に現地採用される場合、給与レンジは経験年数とポジションに応じて月額50,000〜150,000バーツ程度が中心帯です。これに住宅手当、医療保険、ビザ・ワークパーミット取得費用、年1〜2回の一時帰国手当などの福利厚生が加わります。

    レンジの幅が広いのは、ポジションの責任範囲が大きく異なるためです。実務処理の一部を担当するスタッフポジションと、現地法人の経理・財務全体をマネジメントするマネジャー以上では、求められる経験と給与は大きく異なります。求人を見る際は、給与額そのものよりも「自分が何を任されるか」を確認することが重要です。

    業務範囲は、日系事業会社の場合「月次決算→本社レポーティング→監査対応→税務申告のレビュー→タイ人スタッフのマネジメント」という流れが基本です。日系会計事務所の場合は「複数クライアント担当→月次試算表のレビュー→駐在員社長への説明→年次決算・税務申告のとりまとめ」という流れになります。いずれも、日本人として日本本社や日本人クライアントと「腹落ちするまで会話できる」能力が共通して問われます。

    タイ特有の論点と求められる前提知識

    タイの会計・税務には、日本とは異なる固有の論点が複数あります。これらを用語レベルで理解しているかは、面接の場でも確実にチェックされます。

    代表的なものは以下の通りです:

    • BOI(タイ投資委員会)恩典:法人税の3〜8年免税、原材料輸入関税の免除など。BOI認可企業への転職では必須知識。
    • PND各種申告書:PND1(給与源泉税)、PND3/53(事業所得への源泉税)、PND54(外国法人に対する源泉税)、PND50(年次法人税確定申告)、PND51(中間法人税申告)、PND91(個人所得税確定申告)など。略称が似ていて紛らわしいですが、用途は明確に分かれています。
    • VAT(付加価値税、現行7%):日本の消費税より用途範囲が異なり、損害賠償金など非課税となる項目に注意。
    • 外国人の所得税:暦年180日以上の滞在で居住者扱いとなり、累進税率0〜35%が適用されます。2024年改正で国外所得の持ち込み課税ルールも変更されています。
    • 社会保険、プロビデントファンド、Student Loan:給与計算で頻出する控除項目。社会保険は2026年に算定基礎上限が引き上げられ、上限月額875バーツに変更されました。プロビデントファンドは任意加入の退職金積立制度、Student Loanは学生ローン返済の給与天引きで、いずれも概要を知っておくと実務で役立ちます。

    これらは経理・財務職の応募者なら最低限の名前は把握しておくべき論点です。詳細はタイの駐在員所得税の基本と申告手続きや、PwCタイ税制サマリーなどで体系的に学べます。

    注意

    給与レンジの数字だけで求人を判断しないでください。同じ「月額10万バーツ」でも、スタッフポジションとマネジャーポジションでは責任範囲・労働時間・キャリアの伸びしろがまったく異なります。応募前に必ず、業務範囲・チーム構成・直属上司の役職を確認しましょう。

    これらの前提知識があった上で、現場では何が起きているのか。次章では、バンコクで100人以上のタイ人経理候補者を面接してきた元・日系会計事務所所長・木之本氏に話を聞きました。タイの財務・会計・経理求人を一覧でチェックするなら、こちらからどうぞ。

    【独占インタビュー】バンコクで10年・100人以上のタイ人経理を面接した元所長が語る、採用現場のリアル

    本コラムでは、ここまでタイの会計・税務・総務職の構造と、求められる役割をお伝えしました。しかし、現地で実際に「採用する側」が何を見ているのかを語った情報は、ネット上にほとんど存在しません。

    そこで今回、ABROADERS CAREER編集部では、バンコクで日系会計事務所を10年運営し、100人以上のタイ人経理候補者を面接、約30名を採用してきた木之本氏に独占取材を実施。タイ人経理スタッフの面接現場で何を見て、何を判断し、どんな人材が活躍したのかを、生々しい一次情報としてお届けします。

    木之本氏は、日本の税理士事務所職員としてのキャリアを経て、所属法人のタイ初進出にあたり初代所長として赴任した経歴の持ち主。10年間で関与したクライアントは製造業、商社、不動産デベロッパー、不動産仲介、マッサージ、飲食店、コンサルティング、日本人の生徒向けスクール、IT企業など、業種は多岐にわたります。

    本記事は、タイで会計・税務・総務職を目指す日本人求職者にとって、二重の意味で示唆に富む内容です。一つは、採用責任者がタイ人候補者をどう見ているかを知ることで、現地の経理組織がどう動いているかが立体的に理解できること。もう一つは、その視点を裏返すことで、日本人現地採用者に何が期待されているかが見えてくることです。

    「資本金、いくらでしたか?」――タイ人経理候補者に投げかけ続けた、ある質問

    木之本氏が、タイ人経理候補者の面接で必ず投げかけていた質問の一つが、これでした。

    前職で担当した関与先の中で、もっとも高額の資本金はいくらでしたか?

    日本の経理担当者であれば「そのくらい誰でも答えられるのでは」と思うかもしれません。しかし木之本氏によれば、タイの経理人材市場ではこの一問で候補者の本質が浮き彫りになるといいます。

    「資本金って、気を抜くと忘れるんですよ。常に動く数字じゃないですから。だけどタイだとBOI(タイ投資委員会)申請でも、外国人雇用枠の取得でも、資本金は重要論点になる。資本の部として利益剰余金が貯まっているのか、それとも出資金を食い潰しているのか。BSは会社の健全性を見ると言いながらも、案外『経理』レベルの人は気にしていないことが多い。経営を考え出すと、そこをきちんと覚えるようになるんです」

    さらに、この質問にきちんと答えられた候補者には、続けてこう問いかけたといいます。

    「『その会社、何を売っていましたか?』『どんな製品を作っていましたか?』と聞いていきます。たとえば製造業のクライアント担当者だった場合、『金型を作っていました』だけで止まる人と、『自動車の内装を樹脂成形するための金型で、1つあたりおおよそいくらで売っていました』まで言える人がいる。そこまで言えたら即採用です。売り物がわかれば、今度は使っている材料が見えてくる。そうやって、会社の経済活動を立体で捉えられるかどうかを見るんです」

    業界が違えば、聞き方の角度も変わります。

    「不動産仲介業の担当者だったなら、『売り物は物件紹介ですよね。では、誰からフィーをもらえる契約ですか?』『個人のお客さんは、なぜその不動産仲介業者を選ぶんでしょうか?』と聞いていく。差別化要因まで答えられたら本物です」

    逆に、この質問でつまずく候補者は、入社後の実務にも明確な差が出たといいます。

    『ROIが〜』とか財務分析っぽいことを言えても、地に足がついていない人は、結局ただ公式を当てはめただけになる。一方、数字が人の動き、汗水垂らした結果、現場が付随するようになったら本物です。そういう人は、売上高が平均いくらで、固定費がいくらで、と会計の話をしても実態としての会社が見えている。だから監査でも注意点に気づける。一つの出来事をどう捉えるかで、成長が変わるんです」

    なお、木之本氏が触れたBOI(タイ投資委員会)制度や、駐在員にも関わる税務基本論点については、タイの駐在員所得税の基本と申告手続きでも詳しく解説しています。

    面接で見ていた「5つの観察ポイント」

    木之本氏が候補者と向き合うとき、明示的な質問項目以外にも、観察していたサインがいくつもあったといいます。

    1つ目は「買掛金・未払金・未払費用の違いを説明できるか」。これは木之本氏が必ず聞いていた質問でした。

    「この3つって、どれも『未払い債務』なんです。それでも使い分けがある。なぜなら用語が違うから。けれど、会計に鈍感な人は分け方を意識しない。特に未払金と未払費用は、大半の候補者がもごもごと答える

    「この3つはメジャー級に使う勘定科目です。ここですら定義や具体例を言えないと、全ての仕事でなんとなくで進める性格が浮き彫りになる。だから外せない質問でした」

    2つ目は「履歴書の読み方」です。木之本氏は履歴書から、給与・転職歴・住居・出身地の4要素を必ずチェックしていました。

    給与は、前職に比べてどれくらい上げているか。希望給与の妥当性が見えます。転職歴は、長く働いてくれる人かどうか。すぐ辞めるタイプかは、ここでだいたい当たりがつきます」

    住んでいる場所も重要です。雨季もあるバンコクで、通勤って結構大変なんですよ。1時間以上かけている候補者が『大丈夫です』と言ってくると、イメージが甘いな、と感じる。最短3日で辞めた人もいました

    出身地は、『実家に帰る』という理由で辞める人が一定数いること、それからソンクラン(タイ正月、会計事務所では繁忙期)に長期で帰省したいというトラブルにつながるので、注意して見ていました

    3つ目は「言語の壁を超えようとする努力」。「外国人の面接官に対して、伝えようとする努力をするかどうか。これは入社後にクライアントと向き合うときも、同じ姿勢が出ます」(木之本氏)

    4つ目は「書類の扱い」。経理職にとって、書類はある種の人格表現でもあります。

    職務経歴書の更新日付がすごい昔だったりしたら論外です。お金を扱う仕事で、書類の扱いに杜撰さが見えたら採用しづらい。書類が複数枚あるとき、角がビシッと揃っているかどうか。細かいところに神経が行き届くかは、ここで見えてきます」

    5つ目は「所作と頭の回転」。これも、面接の3分以内に観察できる要素です。

    動きの機敏さ、会話の中での頭の回転を見ます。回転が早ければいい、というものでもない。一瞬間があっても、頭の中で精査したな、というのはむしろ印象が良い。なぜなら、関与先に言うべきこと、そうでないことの分別がある証拠だからです」

    「あとは、抽象で終わるだけでなく、わかりやすい具体例と適切な抽象が使える人は、話していて気持ちがいい。会計の話ができるかどうか以前に、人として伝わるかどうかですね」

    ここがポイント

    面接官は「①勘定科目の定義 ②履歴書の4要素(給与・転職歴・住居・出身地) ③言語の壁を超える努力 ④書類の扱い ⑤所作と頭の回転」の5点を、面接の最初の数分で観察している。逆に言えば、応募者はこの5点を意識するだけで、面接通過率が大きく変わる。

    日本人現地採用者にしか出せない価値――「行間を読む」を、行動に変える

    木之本氏は10年間で、タイ人スタッフ約30名のほか、日本人スタッフも10名弱面接してきました。日本人候補者を見るときの視点は、タイ人候補者とはまったく異なるといいます。

    「日本人には、自分(=所長)に何かあった時の後釜を目指せる人かどうか、そうでないなら一部の仕事を完全に任せられるスタッフとしてどうか、という視点で見ていました」

    では、日本人現地採用者がタイで発揮できる、タイ人スタッフでは代替できない価値とは何か。木之本氏は4つ挙げます。

    1つ目は顧客の気持ちに寄り添う姿勢。「文化面でやはり日本人が得意な領域です」

    2つ目は言語的な安心感の提供。クライアントの大半は日本人駐在員社長であり、日本語で込み入った税務・会計の相談ができる相手の存在は計り知れない価値があります。

    3つ目は翻訳者ではなく、解説者になれること。「関与先の社長(駐在員)も会計税務の専門家じゃないので、相手のわからないことをわかるようにしよう、という気持ちが大切。これを転じて、タイ人スタッフにも背景や具体例を用いて教育できる人は、組織の中で本当に重宝されます」

    4つ目は誠実さ。「たとえ税務申告を間違えても、嘘で取り繕う人は採用できない。きちんと謝れる人は重要です。言い訳しない。これは日本人・タイ人問わず重視しますが、特に日本人スタッフには強く求めました」

    そして、これら全ての根底にあるのが「行間を読む力」だと木之本氏は語ります。

    相手が求めているものって、全員違うんです。本社への説明をしなければいけない駐在社長さんなら、説明を代わりに作ってあげる気持ちで試算表のレポートをする。会計にあまり興味がなく営業に専念したい関与先なら、必要最低限を押さえてもらい、忘れそうな会計業務を先回りしてリマインドする。資金繰りがまずい会社だったら、親会社からの借入を逆算して、いつまでに本社に伝えなければいけないかをこちらから提示する。間接部門への評価の付け方がわからないという関与先には、経理スタッフが取り組むべき次のテーマを提案する

    「ここで見えてくるのは、相手に何をしたら喜ばれるか、という視点。それを考えられるのは個々人の持つもの次第ですが、日本人として、行間を読む国に生まれた強みはあると思います」

    「行間を読む力」は、タイで日本以上に伸ばせる

    一方で、木之本氏は厳しい現実も語ります。タイで働く日本人の中には、せっかくの「行間を読む力」を発揮できないまま終わってしまう人もいる、と。

    「収入があって、たまに週末にパタヤに行ってビールが飲めればそれでいい、という人もいるんです。それは別に間違ってはいない。ただ、自社のステージとは合わなかった。言い訳癖があって、相手のための行間ではなく、自分の保身ばかり考えていた。私もピシャリと指摘してしまうものですから、1年半で辞めていきましたね」

    タイにいる日本人は、日本だったら働けない人、日本じゃないから力を発揮できる人、どこでも働けない人――いろいろいるんですよ。それは10年やってきて学んだことです」

    では、後者(=日本じゃないから力を発揮できる人)になるためには、どうすればいいのか。木之本氏は、自身の経験を振り返ります。

    行間を読む力は、どこにいても伸ばせるものです。特にタイで日本以上に責任のある仕事を任された時、どう取り組むかで、日本にいる以上に伸ばせたりします。私自身、30歳でタイに来て、初代所長として大役を任されなければ、このような思考の数々は生まれなかったと思っています」

    これは、これからタイへ渡る求職者にとって、最も希望のあるメッセージかもしれません。スキルや経験は、タイという環境そのものが伸ばしてくれる――そう語る木之本氏の言葉には、説得力があります。

    面接では見抜けないもの――「お金との向き合い方」を炙り出す質問

    10年、100人以上の面接経験を持つ木之本氏ですが、それでも「面接だけでは見抜けない領域がある」と率直に認めます。

    その典型例が、「お金にだらしない人材」です。木之本氏の事務所では、ある時こんな問題が起きました。

    「能力は高いんですが、お金周りに汚いタイ人スタッフがいたんです。『2000バーツでいいから貸して』とスタッフ間で借りて、返さない。新卒で入ったばかりの素直な子にも年上の立場からそれを言い、断られると露骨にひどい扱いをする。日本人(=私)が知らないところでつけあがっていました。最終的に、いびられ続けた素直な子のほうが辞めてしまったんです」

    発覚したきっかけは、辞めた素直なスタッフから総務兼通訳のタイ人スタッフへの相談、そしてそこから木之本氏への報告でした。問題行動を起こしていたスタッフは、その後「ちょっと強い言い方で仕事の指摘をしたタイミングで、思わず退職届を出して」きたといいます。

    「1週間後に撤回したいと言ってきましたが、『そう簡単に出したり引っ込めたりするものではない。もし本当に働き続けたいなら、1回他社で経験をして、その経験を持ってまたResumeを持ってきなさい』と納得させた。もちろん再雇用する気はないですが、そこは『楽しみにしてる』と相手を立てた。これもタイでマネジメントする上で、覚えた立ち回りの一つです」

    会社としては、その後労働契約書に従業員間の金銭貸借禁止を明記。「本人を防ぐのは難しくても、周りに『そういう行為はもってのほかだ』という空気を作っていきました」

    では、こうした人材を面接段階で見抜けたか?――木之本氏は、首を横に振ります。

    サインらしいサインはなかったですね。ただ、その後別の関与先で『最近キックバックを得ているのか、Facebookの投稿でけっこうお金を消費している』という従業員問題を見たので、今ならSNSチェックも有効そうです。見栄を張るかどうか、生活水準と給与のバランスはどうか――そこは見えるかもしれません」

    そして、もし今同じ候補者を面接するなら、必ず聞きたい質問があるといいます。

    「タイでも『いくら貯金している?』はハラスメントになりえるので、直接は聞けません。だから角度を変えて、お金の管理に対する考え方を聞きます。あなたは会計のプロとして、お金を管理する視点について意見を持っているはずだ、と前置きした上で――」

    • いくらくらい貯金しておくのが良いと思うか?
    • 理想通りに貯金できているか?
    • 月々どれくらいを目安に貯めるか?
    • 貯め方のコツはあるか?
    • もしローンを組むとしたら、どういう視点で決めるか?
    • 友人が「一緒に海外旅行しよう」と言い出したら、予算に応じて行く・行かないをどう決めるか?
    • 新しいiPhoneが出たとき、買うべきか保留すべきか?

    「もちろん、面接にありがちな模範解答を作ろうとして、本音ではない可能性があるのはわかっています。その前提で、こちらも『作った話なのか、実践している話なのか』を即興で判断します。会社の財務管理の話なら答えを準備しやすい。だから個人の家計に角度を変える。すると、その人がお金とどう向き合っているかが、自然な対話の中で透けて見えてくるんです」

    会計事務所の所長が、面接で個人の貯蓄観・消費観を聞き出そうとする――この発想自体が、現場で痛い思いをした人にしか辿り着けない採用ノウハウでしょう。

    「もう一度、あなたから会計を教わりたい」――4年後に戻ってきたスタッフの話

    10年の所長業を振り返って、木之本氏が「印象に残っている採用」として挙げたのは、ある女性スタッフのエピソードでした。

    新卒で入社して、1度辞めた後、4年後に戻ってきたスタッフがいたんです。その間に2社、転職を経験していました」

    木之本氏の事務所は、新卒・若手にとって「厳しい職場」だったといいます。「私は口を酸っぱく『条文は?』『税務署のQ&Aは?』と聞き続けていました。基本を徹底的に訓練する方針でした」

    その彼女が4年ぶりに戻ってきた理由は、明確でした。

    『もう一度、あなたから会計を教わりたい』と言ってきたんです」

    転職先1社目はタイのローカル会計事務所。彼女はそこで、物事の進め方の違いに衝撃を受けたといいます。

    「特に『なんでですか?』と聞いた時に、法律に基づいて話をしない人がいたと。私から徹底的に『条文は?』『税務署のQ&Aは?』と聞かれ続けていたので、彼女自身もその意識を続けていたそうです」

    2社目は石油関連の大企業のファイナンス部門でした。資金繰りを担当するポジションで、まったく違う規模の世界。彼女はそこでも「一つ一つの取引をイメージする意識」を持って業務に取り組んだといいます。やがて上司が退職し、自身が部下を率いる立場に。任せることの難しさを経験する中で、「シニアポジションで後輩の育て方を学びたい」と考えるに至ったそうです。

    戻ってきた彼女が担当する企業は、いずれも資本金5千万バーツを超える中堅クラス。規模が大きくなれば、当然扱う書類の量も論点の難度も跳ね上がります。

    「大きな会社になると、書類の数に埋もれて、かえって間違いが見つけづらくなるんです。そんな中でも論点を見つけられるかどうか――彼女はそれができる」

    たとえば、本社からの借入金の利息計算に誤りが紛れていれば、すぐに気づいて指摘できる。

    損害賠償金が雑収入にも雑費にも計上されているような会社では、勘定科目欄に「Compensation Expense」と書かれているからと処理を済ませず、その背景に何が起きたのかを必ず確認しに行く。そのうえで、タイではVAT(付加価値税)がかからないことを、根拠を添えて関与先に説明できます。

    「日本では、損害賠償でも消費税がかかるケースがあると教えました。だから彼女は、ただ書類に書かれている言葉を機械的に処理するのではなく、何が起きたのかを確認するようになった。それができるかどうかで、関与先の、特に日本人への説明はまったく変わってくるんです」

    PND51(中間法人税申告)の納税額が700万バーツに膨らんだときも、なぜその金額になったのか、どの計算過程に起因しているのかを、駐在員社長が腹落ちするまで噛み砕いて伝えられる。BOI恩典が100%免税期間から50%免除期間へと切り替わるタイミングで、何がどう変わるのかを、税務だけでなく経営判断の文脈で整理できる。

    「経営に必要な会計や税務の情報を、矛盾なく説明できる」――木之本氏の言葉には、深い満足感が込められていました。「それが『あの子に任せていたら大丈夫』『絶対担当を変えないで』という抜群の評価につながるんです

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    筆者からのコメント

    木之本氏のインタビューが教えてくれるのは、結局「採用される側」が考えるべきは「採用する側の視点」だということ。資本金の質問、貯金観の質問、書類の角の揃え方――どれも単なる小手先のテクニックではなく、その人の「会計人としての視座」を炙り出す道具です。タイで活躍したいなら、視座を磨くことから始めましょう。

    あなたの経歴を「資本金の質問」で棚卸ししてみよう

    木之本氏のインタビューから浮かび上がるのは、一つの強烈なメッセージです。それは――「採用される側」が知っておくべきことは、「採用する側が何を見ているか」を理解することに他ならない、ということ。

    このコラムを読み終えた今、ぜひ自分の経歴を、木之本氏の質問を投げかけられたつもりで棚卸ししてみてください。

    • あなたが前職で担当した会社のうち、もっとも資本金が大きかったのはいくらでしたか?
    • その会社は何を売っていましたか? 売り物の単価や材料まで、自分の言葉で語れますか?
    • 買掛金・未払金・未払費用の違いを、新人スタッフに具体例つきで説明できますか?
    • あなたが「この経営者は何を求めているか」を読み取って動いた経験はありますか?
    • お金との向き合い方について、自分なりの哲学を持っていますか?

    これらに胸を張って答えられるなら、あなたはタイの現場で歓迎される素養を持っています。答えに詰まる項目があったなら、そこが今のあなたの伸びしろです。

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    チェックポイント

    タイへの応募準備は「タイ語学習」「ビザ手続き」だけではありません。自分の前職経験を「採用する側の視点」で棚卸しすることが、面接通過率を上げる最短ルートです。

    バンコクの経理・財務職の求人を見ると、ポジションごとの具体的な業務範囲が見えてきます。木之本氏の質問群を頭に置いた状態で求人票を読むと、「自分はどのレベルのポジションに応募できるか」が驚くほどクリアに見えてくるはずです。

    タイは、日本人としての強みが発揮しやすい土壌が整っている国です。木之本氏の言葉を借りれば「日本では働けなくても、タイなら力を発揮できる人」も少なくありません。同時に、ぬるい姿勢のまま行けば「すぐに見抜かれて1年半で辞める」現場でもあります。

    大切なのは、表面的な転職対策ではなく、自分の視点を磨くこと。本コラムが、あなたの一歩を後押しできれば幸いです。タイのキャリア関連コラム一覧もぜひ参考にしてください。

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