バンコクで「コンサルタント」と名のつく求人を並べてみると、最初に戸惑うのは肩書きの守備範囲の広さです。日系企業のタイ進出を支える窓口役もいれば、SAPの導入を仕切るITの専門家もいる。国際税務の意見書を書く人も、タイの工場に月1〜3回足を運んで改善を指導する人も、同じ「コンサルタント」で括られています。
給与も月給5万バーツから30万バーツまで、6倍の開きがあります。この記事では、バンコクで公開されているコンサルティング職の求人を専門領域ごとに整理し、どの入口が自分の経歴とつながるのかを判断できるようにまとめました。
「コンサルタント」という肩書きの中に、六つの専門が同居している

掲載求人を業務内容で仕分けると、性格の異なる六つの領域が見えてきます。
ひとつめが戦略・市場調査系。市場参入の可否を調べ、事業計画を描き、実行まで伴走します。ふたつめがIT・DX系。SAPの導入、IT戦略の策定、サイバーセキュリティ対策の設計といった、システムを軸にした支援です。みっつめが税務・会計系。税務デューデリジェンス、記帳と申告のレビュー、国際税務のアドバイザリーが中心になります。
よっつめが人事・組織系。人事制度の設計と運用支援、研修の企画と実施、組織風土改革まで踏み込みます。いつつめがデジタルマーケティング・EC系。ECモールでの販売支援やWebマーケティングの設計です。むっつめが製造現場改善系。工場に入って生産性や品質を直接動かします。
同じ検索結果に並んでいても、求められる経歴はまったく違います。まずは自分がどの領域に当てはまるのかを決めてから求人を読むと、判断がぐっと速くなります。
日系企業の窓口に立つ|バンコクのコンサルタントに共通する役割

領域が違っても、バンコクの日本人コンサルタントに共通して求められている役割があります。日系クライアントとタイ人スタッフの間に立つことです。
三井住友銀行のグループ会社として1989年に設立された総合コンサルティング会社の求人が、その構図をわかりやすく書いています。ポジションの説明には「主に日系企業のお客様をご担当いただき、顧客対応の窓口として社内のタイ人コンサルタントと連携しながらプロジェクトを推進していただく」とあり、業務は日系顧客との窓口業務、顧客の要件やフィードバックを社内のタイ人コンサルタントに正確に共有すること、会議設定やスケジュール管理といった社内外の調整、提案書・報告書の作成が並びます。組織は全体22名、配属部署は6名でうち日本人は2名という規模です。
日系大手コンサルティング会社のシステムコンサルタント求人も「主要顧客は日系90%(ASEAN)」と明記しており、自動車、物流、建設、消費財、食品、保険といった業種が並びます。所属部門は15名、うちナショナルスタッフが9名。少人数のチームで日本人が数名という構成は、この職種では珍しくありません。
裏を返せば、日本語での提案力と、英語でタイ人・アセアン各国のメンバーを動かす力の両方が同時に問われるということです。
戦略・市場調査系|飛び込み営業ではない案件の取り方

戦略系の求人で目を引くのは、営業活動が業務に含まれていることです。ただし、いわゆる新規開拓とは性格が違います。
日系大手コンサルティング会社の経営コンサルタント求人には、業務の筆頭に「クライアントに対する営業活動の実施(引き合い獲得、企画書作成、クロージング)」が挙げられ、続けて「ゼロからクライアントを開拓することは無く」と明記されています。主な対象は製造業とサービス・インフラ業の日系企業で、東南アジア各国を対象とした調査、戦略策定、その後の実行支援まで手がけます。
日系総合コンサルファームの成長戦略コンサルタントは、より上流です。中堅中小企業から大企業に対して、コンサル業務、マーケットリサーチ、市場参入と事業開発、デューデリジェンス、JVやパートナーシップの支援までワンストップで提供しています。業務にはポテンシャル顧客の課題特定と提案、ワークプランの立案、市場調査と分析、オンサイトでの改善施策の実施と検証、ベンダーやパートナー企業の選定と交渉が並び、日本、タイ、ベトナム、インドネシア、インドのチームとの協業も入ります。従業員は20名。マネージャー採用ならタイ法人責任者、シニアコンサルタント採用ならマネージャーがレポートラインです。
IT・DX系|SAPとセキュリティが単価を押し上げる

掲載求人の中で給与レンジの上限が最も高いのが、この領域です。
SAPをベースにIT戦略立案と業務改革支援を行う企業のSAPコンサルタントは月給120,000〜300,000バーツ。業務は業務プロセスとビジネス環境の調査・分析、現行システムと業務フローの分析、新規システムの仕様検討から設計・開発、海外ロールアウト、RFP(提案依頼書)の作成、ブループリント作成と予算感の算出、ベンダー選定支援、導入済みシステムの保守と追加開発まで及びます。従業員は約30名。求人タイトルに「駐在員採用あり」と添えられ、特徴欄にも「駐在員切替あり」のタグが付いています。
日系大手コンサルティング会社のセキュリティコンサルタントは100,000〜150,000バーツ。日系企業のASEAN拠点に対して、サイバーセキュリティ対策方針の策定から実行までを一貫して支援するサービスで、診断ツールを使ったIT・OT環境のセキュリティアセスメントと課題分析、セキュリティ戦略とロードマップの策定、新規サービスの企画にも関わります。事業の立ち上げメンバーという位置づけです。
同じ会社のシステムコンサルタントは70,000〜180,000バーツで、IT戦略・デジタル戦略の策定と実行支援、ソリューション導入に伴う業務改革支援、要求整理から要件定義、RFP策定、ベンダー調達支援、プロジェクトマネジメント/PMOを担当します。
税務・会計系|資格と経験年数が入口を決める領域

この領域は、上のポジションほど資格や経験年数で入口がはっきり区切られています。
世界的な大手会計事務所の税務シニアアソシエイトは70,000〜100,000バーツ。業務は過去の税務コンプライアンスの精度査定(税務ヘルスチェック)、特定取引にかかる税務意見書やアドバイスレターの作成、M&A取引における税務デューデリジェンスと税務ストラクチャリング、歳入局による税務調査の立会いと対応支援、FTAやタリフコード分類などの関税アドバイザリー、M&A取引の法務デューデリジェンスと関連契約書の作成です。求人票には「外資系企業となるため、社内コミュニケーションは全て英語」とあります。
同じ事務所の税務ディレクター候補になると150,000〜200,000バーツ。必須条件は国際税務・税務コンプライアンス業務の経験が目安として10年以上と、ぐっと重くなります。
日系の会計事務所が募集する公認会計士は100,000〜150,000バーツ。月次記帳と月次申告、ローカルスタッフが作成した記帳や税務申告のレビュー、日系クライアントへの説明と質問対応、財務・税務デューデリジェンスのサポート、バリュエーションや内部監査サポートが業務です。必須条件に「日本国公認会計士資格をお持ちの方」とあり、資格が入口そのものになっています。求人票のタイトルには「駐在員雇用の検討可能」ともあります。
人事と製造現場|「人」と「工場」に入り込む二つの専門

残る二つの領域は、クライアントの内側に深く入り込むタイプです。
人事コンサルティングファームは、タイを拠点に東南アジアと南アジア(インド)の日系・外資企業向けに、人事制度の設計・運用支援、経営層から一般従業員までの研修やワークショップの企画・実施、組織風土改革の推進を手がけています。担当は常時3〜4件のプロジェクト。求人票には、MBO(目標管理制度)の導入支援では制度設計に留まらず現場の理解を深めるワークショップを併せて実施し、制度が定着するまで伴走するという例が挙げられています。月給は70,000〜100,000バーツで、必須条件は3年以上の人事コンサルタント経験です。
製造業向けの独立系コンサルティング会社は80,000〜90,000バーツ。生産部門だけでなく開発・設計、調達・購買、物流・販売まで、ものづくりの各プロセスを対象にしています。業務は生産性向上、品質管理、コストダウン、納期短縮、人材育成といった課題解決コンサルティングで、工場や業務フローの診断と課題抽出、企画提案書の作成、改善施策の実行支援と現場指導が並びます。訪問は月1〜3回程度、担当クライアントは5〜7社、1案件あたり1年以上の中長期支援です。
この製造業向けの求人は、特徴欄に「未経験者歓迎」「語学力不問」の両方が付く唯一のポジションでもあります。ただし必須条件には「製造業で生産管理、品質管理、生産技術等の経験がある方」とあり、コンサルティングが未経験でよいという意味です。日本の工場で積んだ経験を、そのままコンサルタントの武器に変えられる入口といえます。
月給5万〜30万バーツ|同じ肩書きで6倍の差がつく理由

公開されている求人の給与レンジを、領域別に整理しました。
| 領域 | 月給レンジ(バーツ) | 代表的なポジション |
|---|---|---|
| IT・DX系 | 70,000〜300,000 | SAPコンサルタント、セキュリティコンサルタント、システムコンサルタント |
| 税務・会計系 | 70,000〜200,000 | 税務シニアアソシエイト、税務ディレクター候補、公認会計士 |
| 戦略・市場調査系 | 70,000〜200,000 | 経営コンサルタント、成長戦略コンサルタント |
| 人事・組織系 | 70,000〜100,000 | 人事組織コンサルタント |
| 製造現場改善系 | 80,000〜90,000 | 製造業向けコンサルタント |
| デジタルマーケ・EC系 | 50,000〜100,000 | ECコンサルタント、WEBコンサルタント、マーケティングコンサルタント |
下限の50,000バーツはECコンサルタントとWEBコンサルタント、上限の300,000バーツはSAPコンサルタントです。差を生んでいるのは、代わりのきく人がどれだけいるかという一点に尽きます。SAPの導入経験、国際税務の実務10年、日本国公認会計士。いずれもタイ国内で日本語と英語の両方を使って動ける人材が限られる領域です。
ただしECコンサルタントとWEBコンサルタントの求人には歩合給があり、求人票には「個人の業績次第で、2年目以降で1000万円以上の年収を獲得する社員もいます」という記載もあります。固定給の低さだけで判断しないほうがよい領域です。
英語はどこまで必要か|日常会話からTOEIC850までの段差

この職種で最も見落とされやすいのが、語学要件の幅です。同じコンサルタント職でも、要求水準に明確な段差があります。
最も高いのが、三井住友銀行グループの総合コンサルティング会社で「ビジネスレベル(TOEIC850以上目安)」。次いで日系大手のセキュリティコンサルタントが「TOEIC800点以上」を目安とし、「非英語圏の関係者との業務におけるコミュニケーション経験」まで求めています。経営コンサルタントは「英語TOEIC700以上もしくは同等の資格、実力があること」で、こちらは括弧書きで「タイ語不問」と添えられています。
一方で、マーケティングコンサルタントは「英語日常会話以上」、日系会計事務所の公認会計士も「英語日常会話レベル以上」。ECコンサルタントとWEBコンサルタントに至っては「英語ビジネスレベル、もしくはタイ語日常会話レベル」と、どちらかを満たせばよい書き方です。ただしWEBコンサルタントのほうは、これに加えてプロジェクトマネジメント経験または無形商材の顧客マネジメント経験が必須条件に入ります。そして製造業向けコンサルタントは語学力不問です。
つまり英語力が足りないと感じている方でも、領域を選べば入口はあります。逆に高い語学要件が課されているポジションほど、社内公用語が英語であったり、アセアン各国のメンバーと日常的にやり取りしたりする構造になっています。求人票の必須条件は、その環境を示すシグナルとして読むのが正確です。
週3リモート・フレックス・駐在員切替|働き方と契約の幅

コンサルティング職というと激務のイメージが先に立ちますが、掲載求人の条件欄は思ったより穏やかです。
就業時間は8:00〜17:00と9:00〜18:00がほとんどで、マーケティングコンサルタントが9:00〜17:30、日系会計事務所の公認会計士が9:30〜17:30。休日はいずれも土日と祝日が基本です。成長戦略コンサルタントの求人には年間休日122日と明記されています。
働く場所にも幅があります。日系大手のシステムコンサルタントは「週3日リモート勤務可能、週2日オフィス勤務」と明記され、ただし顧客都合で客先オフィスへの出社が必要になる場合があるとも書かれています。人事コンサルティングファームはフレックスタイム制でリモートワークも可、ただしプロジェクトによっては土曜出勤があり代休を取得できる形です。マーケティングコンサルタントの求人にも「リモート中心のフレキシブルな職務環境」とあります。
契約形態にも選択肢があります。SAPコンサルタントの求人には「駐在員切替あり」、日系会計事務所の公認会計士には「駐在員雇用の検討可能」という記載があり、現地採用から始めて条件を変えていける可能性が示されています。
BOIビザと実務経験年数|応募前に確認しておきたいこと

タイで働くには、ノンイミグラントBビザ(就労目的の査証)とワークパーミット(労働許可証)が必要です。手続きは採用企業が主体となって進めるため、応募者が個人で役所に通う場面はほとんどありません。
ただしこの職種では、ビザ要件が応募条件そのものに反映されている点に注意が必要です。SAPコンサルタントの必須条件は「5年以上のSAPコンサルタント経験者(ビザの取得要件)」、システムコンサルタントは「IT領域での実務経験5年以上の方(BOIビザ付与のため)」、経営コンサルタントは「職務経験2年以上必須(BOIビザ付与のため)」と、いずれも理由が括弧書きで説明されています。経験年数が足りない場合は、企業側の裁量ではどうにもならない部分です。
応募前に整理しておきたいのは、次の3点です。
- どの領域で戦うのか:戦略、IT・DX、税務会計、人事、デジタルマーケ、製造現場のどれか。求められる経歴も給与も語学要件もここで決まります。
- 実務経験の年数を数えておく:ビザ要件と直結するため、職務経歴書では担当領域と年数を明確に書いてください。
- 提案資料を語れるようにする:多くの求人がPowerPointでの提案書・報告書作成を業務に挙げています。何をどう構成して意思決定を動かしたか、具体例で語れると強くなります。
なお選考については、日系大手コンサルティング会社の3ポジションとSAPコンサルタントの求人に「オンラインで内定まで」、ECコンサルタントには「オンラインで一次面接実施可能」と「オンラインで内定まで」の両方の記載があり、日本にいながら進められるものもあります。まずは実際の求人を眺めて、自分の経歴がどの領域に接続するか確かめてみてください。
※本記事の求人情報・給与・勤務条件は、ABROADERS CAREER 掲載求人(求人掲載元:Reeracoen Thailand、2026年8月時点)に基づいています。

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