8件中6件が英語「指定なし」|チョンブリーの設計はここまで語学を問わない

チョンブリーはバンコクの南東、車でおよそ1時間半の距離にある県です。アマタシティをはじめとする工業団地が集まり、日系メーカーの工場が集中しています。日本人が多く住むシラチャの街もこの県にあります。
そのチョンブリーで募集されている設計開発エンジニアの求人を、一つずつ開いてみました。まず驚かされるのが語学要件の軽さです。
8件の英語レベル欄を並べると、指定なしが6件、日常会話レベルが1件、初級レベルが1件。ビジネスレベルを求める求人は一つもありません。8件のうち6件、75%が指定なしという比率は、タイの求人全体と比べても際立っています。
しかも3件は応募条件の本文でも明確に書いています。自動車部品メーカーの製品設計職は必須条件の1行目が「言語不問」。ゴム製品の製造設備・金型メーカーはCADオペレーター職と機械設備設計職の2件を出していて、どちらも必須条件の1行目が「言語不問」です。
理由は仕事の性質にあります。設計は図面とCADデータが共通言語になる領域です。日本人の設計者とタイ人の技術者が、同じ画面を指さしながら話す。この場面では、語学より設計そのものの中身のほうがはるかに重要になります。
英語に自信がないことを理由に海外就職をあきらめている方にとって、チョンブリーの設計職は現実的な選択肢だと言えます。
ただし語学ゼロでいいわけではない|欄と本文がずれる3件

ここで注意が必要なのが、英語欄が「指定なし」になっている6件の中身です。全部が語学不要というわけではありません。
射出成型金型・成型品メーカーの金型部署責任者職は、英語欄が指定なしでありながら、必須条件の1行目に「タイ語日常会話レベル(現場での指導、育成はタイ語でコミュニケーションをとっていただくため)」と書いています。その他言語の欄にもThaiと入っています。英語は要らないが、タイ語は要るという求人です。
大手エアコンメーカーの組み込みソフトウェアエンジニア職も、英語欄は指定なしですが、必須条件に「英語もしくはタイ語日常会話レベル(社内コミュニケーションに使用)」が入っています。こちらはどちらか片方でよいという書き方です。
ずれは逆方向にも起きます。ダイカストメーカーの金型部門長職は、仕事内容の欄に「●言語不問!通訳が常駐しているため高い英語力は必要ありません」と書いていますが、必須条件には「英語初級レベル(文章が理解できるレベル)」があり、英語のレベル欄も初級です。「言語不問」と謳いながら、条件欄では初級を求めているという形になっています。
つまり英語欄だけを見て「語学不問だ」と判断すると読み違えます。指定なしの6件のうち、本文でも語学を問わないのは4件で、残る2件は本文で語学を求めています。さらにこの金型部門長職のように、うたい文句と条件欄がずれる求人もあります。
求人を開いたら「英語」欄、「その他言語」欄、そして応募資格の本文という3か所を必ず見てください。1か所だけで判断すると、応募してから話が合わなくなります。
「言語不問」なのに語学手当がある求人

語学をめぐって、もっとも興味深い書き方をしているのが自動車部品メーカーの製品設計職です。
必須条件の1行目は先に触れたとおり「言語不問」。ところが福利厚生欄を見ると、「言語手当(TOEIC500点以上で点数に応じて月1,000-5,000THB / タイ語が流暢な方も言語手当を検討中)」という項目があります。
語学を採用の条件にはしないが、持っている人には手当を払う。しかもTOEICの点数に応じて月1,000バーツから5,000バーツまで段階を設けていて、タイ語が流暢な人への手当も検討中だと書いています。
この設計は、会社側の本音がよく出ていると思います。設計ができる日本人を確保することが最優先で、語学はそこに上乗せされる付加価値だという位置づけです。求職者の側から見れば、語学がなくても入れて、あとから伸ばせば手当がつくということでもあります。
この求人は他にも「国外出張手当(頻度は多くありませんが、東南アジアへの出張も発生致します。)」を挙げていて、語学を問わないポジションでありながら国をまたぐ場面があることも書かれています。
土日祝休みが6件|同じチョンブリーでも設計は休める

工業団地の求人というと土曜出勤が当たり前というイメージがあると思います。設計開発に関しては、これが当てはまりません。
8件のうち6件が土日祝休みです。土曜出勤があるのは2件だけで、金型部署責任者職が「※土曜は月に1回程度の出勤が発生することもございます。」、ダイカストメーカーの金型部門長職が「土日(月2回程度土曜日出勤あり)」という書き方です。
年間休日を数字で書いている求人は2件。自動車部品メーカーの製品設計職が「年間休日114日程度」、ダイカストメーカーの金型部門長職が「年間休日106日(稼働日=259日)」です。前者は「年末年始、ソンクランは1週間〜9日程度」の連休も明記しています。
設計は工場のラインが動いていない日でも進められる仕事です。図面を引き、計算し、検証する。この性質が、そのまま休日の条件に出ているのだと思います。
もう一つ、ゴム製品の製造設備・金型メーカーの機械設備設計職の休日欄には、出勤日を特定の顧客企業のカレンダーに準拠させるという但し書きがあり、求人票にはその顧客の社名まで書かれています。設備を納める相手の工場が動く日に合わせるという意味で、こうした求人では自社のカレンダーだけでは休日が決まりません。
金型メーカーの求人が4件|チョンブリーに集まる技術

会社の事業内容で見ると、金型を手がけるメーカーの求人が4件と半分を占めました。
ゴム製品の製造設備・金型製造メーカーが2件(CADオペレーターと機械設備設計)、射出成型金型・成型品メーカーの金型部署責任者、ダイカストメーカーの金型部門長です。
残りの4件は、自動車部品メーカーの製品設計、同じく自動車部品の技術設計、樹脂成型メーカーの射出成形責任者、そして大手エアコンメーカーの組み込みソフトウェアエンジニアです。
金型が多いのは、チョンブリーの工業団地に自動車部品と樹脂・ゴム成形の工場が集積しているからです。金型は製品ができる前段階を決める技術で、日本の技術者が長く優位を保ってきた領域でもあります。求人の条件にも「射出成型金型に関する経験(金型設計、製作、管理、保全、メンテナンス、修理等の実務経験者)」「鋳造金型の製作、保全、メンテナンスに目安として5年以上携わった経験のある方」といった、具体的な書き方が並びます。
金型の経験がある方にとって、チョンブリーは同じ県のなかで複数社を比較できる場所だと言えます。
CADのソフト名が具体的に出てくる|CATIA、AutoCAD、MICRO CADAM

設計職らしく、使えるソフトの名前が求人票にそのまま出てきます。
自動車部品メーカーの技術設計職は必須条件に「Auto CAD / Solid work が扱えること (ビジネスレベル)」と書いています。ここで「ビジネスレベル」と言われているのは英語ではなくCADソフトの習熟度です。
ゴム製品の製造設備・金型メーカーの機械設備設計職は「2D CAD(MICRO CADAM)の使用経験(または使用に抵抗がない方)」。括弧のなかの「または使用に抵抗がない方」という一言が効いていて、使ったことがなくても構わないという含みを持たせています。同じ求人は必須要件に「設備設計経験」を挙げたうえで、その注記として「機械部品(モーター、エアシリンダー等)の名称・用途を熟知し、出力計算ができる方」、さらに部品知識として「MISUMI等の機械部品の選定・用途が理解ができる方」と書いていて、実務の中身をかなり細かく指定しています。
自動車部品メーカーの製品設計職は歓迎条件に「自動車部品メーカーにてCATIA V5を用いた設計経験がある方」を挙げています。
職務経歴書を書くときは、扱ったCADの名前とバージョンを具体的に書いておいたほうが伝わります。語学を問わないカテゴリだからこそ、技術の中身が判断材料になります。
ビザの取得条件を応募条件に書いている求人

8件のなかで、もっとも変わった書き方をしているのが大手エアコンメーカーの組み込みソフトウェアエンジニア職です。
必須条件の1行目が「ビザ、労働許可証の取得条件を満たす方(下記1もしくは2の該当者)」で、その下に「1. 関連学部卒かつ関連職種経験が2年以上ある方」「2. 関連職種経験が5年以上ある方」と続きます。
これは会社の希望というより、タイで就労ビザと労働許可証を取得する際に一般的に求められる水準を、そのまま応募条件にしているということです。外国人がタイで働くには職種に応じた学歴か実務経験が見られ、それを満たさないと採用が決まっても手続きが通らないことがあります。ただし実際の可否は職種や会社の資本金、外国人雇用枠、BOI恩典の有無などによっても変わるので、一律の基準ではありません。求人票にここまで明記している会社は多くありませんが、選考の途中では必ず出てくる話です。
逆に言えば、この2つのどちらかを満たしていれば、書類の面では入口に立てるということでもあります。関連学部を出ていれば2年、出ていなくても5年。自分がどちらに当てはまるかを整理しておくと、応募の見通しが立てやすくなります。
この求人は他にも「タイでの最終面接にご参加いただける方(渡航にかかる費用は企業負担)」と書いていて、最終面接のためにタイまで来ることを求める代わりに、その費用は会社が持つとしています。
賞与1か月から7か月まで|「賞与7か月!」と書く会社

月給の額だけを横に並べると、実際の年収とはかなりずれます。8件の賞与の書き方には、大きな差がありました。
もっとも高いのが、先ほどの大手エアコンメーカーの組み込みソフトウェアエンジニア職です。求人タイトルに「賞与7か月以上」と入れ、仕事内容欄の「同社で働く魅力」にも「●賞与7か月!」と書いています。福利厚生欄の表記は「賞与(平均7.5か月)」です。月給は50,000〜80,000バーツと8件のなかでは低いほうですが、賞与を含めて年収で考えると印象が変わります。
次が自動車部品メーカーの製品設計職の「賞与(平均3-4ヶ月)」、射出成型金型・成型品メーカーの「賞与(年1回 平均3ヶ月)」、自動車部品メーカーの技術設計職の「賞与(年1回 / 22年度実績2カ月)」と続きます。
一方でゴム製品の製造設備・金型メーカーの2件は、どちらも「賞与(年1回 / 1か月分固定)」。樹脂成型メーカーも「賞与: 年1回 / 2024年度実績1カ月」です。
賞与7か月の求人と1か月の求人では、同じ月給でも年収が4割以上違います。月給のレンジだけを見て判断すると、この差はまったく見えません。
ほかにも年収に効く項目があります。樹脂成型メーカーは「住宅補助: 2,000THB」「食事手当: 1,000THB / 月」「携帯電話: 月500THB」と細かく積み上げていますし、自動車部品メーカーの技術設計職は「一時帰国手当(航空券 年2回)」を用意しています。
タイ在住者限定の求人と、渡航費を出す求人

日本から応募するのか、すでにタイにいるのか。この違いが選考の入口を分ける求人があります。
ゴム製品の製造設備・金型メーカーの機械設備設計職は、必須条件に「タイ在住者(またはタイでの生活経験者)」を入れています。現在タイにいるか、過去にタイで暮らした経験があることが条件です。日本から初めて海外に出ようとしている人は、この時点で対象外になります。
対照的なのが大手エアコンメーカーの組み込みソフトウェアエンジニア職で、「タイでの最終面接にご参加いただける方(渡航にかかる費用は企業負担)」。来てもらう代わりに費用は出すという設計で、日本在住者を想定した書き方です。
残りの求人はこの点に触れていません。触れていないからといって日本から応募できるとは限らないので、面接がオンラインで完結するのか、現地に行く必要があるのかは早い段階で確認しておくことをおすすめします。
もう一点、雇用形態が特殊な求人が1件あります。ダイカストメーカーの金型部門長職は福利厚生欄に「雇用形態: 1年目は年俸制社員、2年目以降は更新 or 正社員登用」と書いています。同じ求人には「駐在員切り替え制度あり」もあり、タイトルにも「本社採用切り替え実績あり」と入っています。入口は年俸制で、2年目以降は更新か正社員登用、さらに実績次第で本社採用に移る道筋があるという設計です。
月給5万〜30万バーツ|レンジの決まり方

給与のレンジは、下限がもっとも低いもので50,000バーツ、上限がもっとも高いもので300,000バーツです。
上限300,000バーツは自動車部品メーカーの技術設計職(200,000〜300,000バーツ)。この金額は現時点のタイの求人全体を見渡しても最高水準です。必須条件は「部品設計および製造工程について管理されてきたご経験 (理想10年以上)」と「Auto CAD / Solid work が扱えること (ビジネスレベル)」の2つだけです。語学は歓迎条件に「英語 or タイ語でメンバーとコミュニケーションが取れる (不可の場合は通訳の採用を検討可)」とあるだけで、必須条件には入っていません。
次が射出成型金型・成型品メーカーの金型部署責任者職(90,000〜150,000バーツ)、ダイカストメーカーの金型部門長職(100,000〜140,000バーツ)です。
下限50,000バーツの求人は2件。ゴム製品の製造設備・金型メーカーのCADオペレーター職(50,000〜80,000バーツ)と、大手エアコンメーカーの組み込みソフトウェアエンジニア職(50,000〜80,000バーツ)です。前者は求人タイトルに「未経験歓迎」と入っていて、必須条件は「言語不問」「機械系もしくは建築系知識をお持ちの方」「CAD設計に興味がある方」の3つだけ。設計の実務経験そのものは求められていません。
この分布から読み取れるのは、レンジを押し上げているのは語学でも肩書きでもないということです。ただし経験年数だけで決まるわけでもありません。経験10年を条件にしている求人は2件あり、上限300,000バーツの技術設計職がその1つですが、もう1つの樹脂成型メーカーの射出成形責任者職は60,000〜100,000バーツと中位です。この求人は「プラスチック射出成形の経験が10年以上ある方」「成形条件を出せる方、また射出成形機及び他周辺機器のセッティング、メンテナンスが出来る方」を必須にしています。
逆に上限が2番目に高い金型部署責任者職(90,000〜150,000バーツ)は年数を指定していません。年数そのものより、どの技術領域で何を任されてきたかが効いていると考えたほうが実態に近そうです。
ビザ・就労許可と、応募前に整理しておきたいこと

タイで働くには、就労ビザ(ノンイミグラントB)と労働許可証(ワークパーミット)の両方が必要です。ビザは本人が申請しますが、その際に雇用主が労働局から取得する就労事前承認書(WP3)などの書類が必要になるため、採用が決まらないうちに個人だけで進めることはできません。労働許可証は入国後に申請しますが、委任状によって雇用主や代行業者が手続きを進めるのが実務上は一般的です。今回の8件は全件が福利厚生欄に「ビザ、労働許可証支給」またはそれに相当する記載を置いています。
先に触れたとおり、このカテゴリには取得要件そのものを応募条件に書いている求人があります。「関連学部卒かつ関連職種経験が2年以上」または「関連職種経験が5年以上」という2つの道筋は、設計職に限らず、タイで働く外国人の審査で一般的に見られる水準です。応募先の求人票に書かれていなくても、選考の途中でこの話は必ず出てきます。
応募前に整理しておくと動きやすいのは、次の3点です。第一に、扱ってきたCADソフトの名前と、設計してきた製品の分野。金型なのか、製品設計なのか、設備設計なのかで、応募できる求人がはっきり分かれます。第二に、学歴と実務経験年数の組み合わせ。ビザの要件に直結するので、卒業学部と経験年数を正確に言えるようにしておいてください。第三に、タイに来られるタイミング。最終面接のために渡航が必要な求人もあれば、タイ在住者に限定している求人もあります。
下のリストは実際に募集されている求人です。条件は随時更新されるので、気になるものがあれば詳細ページで最新の内容を確認してみてください。

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