「海外で働きたいけれど、営業はやりたくない」。そう考えて事務職やマーケティング職の求人を探し始めると、タイでは少し不思議なことが起こります。企画・事務・マーケティング・PRのカテゴリを開いたのに、並んでいるタイトルの多くに「営業」の二文字が入っているのです。
これは分類ミスではありません。タイの日系拠点では、営業と、その営業を成り立たせる企画・調整・事務が地続きになっているからです。この記事では、タイで公開されている企画・事務・マーケティング・PRの求人を役割ごとに整理し、日本での経験がどこに接続するのかを読み解いていきます。
「企画・事務・マーケティング」で括られる求人の正体
掲載求人を業務内容で仕分けると、大きく五つのグループが見えてきます。
ひとつめが営業事務・営業サポート。受発注管理から納期調整、資料作成まで、営業の後ろで動く仕事です。ふたつめが営業推進・コーディネーター。複数の拠点をまたいで案件を回す役割で、日本本社とアセアン各国の間に立ちます。みっつめがマーケティング。デジタル運用と広告代理店の二系統があります。よっつめがWeb・ECのディレクション。数字を追ってサイトを改善する仕事です。いつつめが経営企画・事業開発・秘書で、拠点の意思決定に近い位置になります。
そしてこのカテゴリには、純粋な営業職も相当数が同時に分類されています。求人票の職種欄が複数タグを持つためで、探すときは「営業」の文字だけで除外せず、業務内容の欄まで読むのが正解です。
営業事務は「事務」ではない|日本本社と工場をつなぐ調整の仕事
タイの営業事務は、日本のイメージよりも守備範囲がかなり広く取られています。
日系FA機器メーカーの営業事務求人を見ると、業務は受注・発注管理、見積依頼への対応と見積書の作成・送付、発注書と受注書の作成とシステム入力、日本本社やグループ工場・仕入先との納期調整と進捗確認、タイ国内への輸入手配と納品スケジュール調整、営業担当者のサポート、問い合わせ対応、請求書の発行まで並びます。月給は50,000〜60,000バーツ。必須条件は就労経験1年以上と英語日常会話レベル、PCの基本操作です。
大手商社グループの日系機械商社になると、さらに調整の色が濃くなります。業務には「ローカルスタッフ、駐在員、および他国関係者との各種調整・業務仲介」「メール対応(英文・和文など)および各種会議への参加・ファシリテーション」が明記され、見積書や請求書の書類処理は「基本的にはアドミスタッフが対応します」と書かれています。つまり手を動かす作業より、人と情報を動かす仕事です。月給は70,000〜100,000バーツ、必須条件は営業もしくは営業サポートの実務経験2年以上と、英語で業務上スムーズにコミュニケーションできることです。
日系大手グローバルメーカーの営業サポートは56,500〜67,000バーツで、必須条件に「ビジネス英語(TOEIC650点以上目安)を使用し、社内コミュニケーション、メール対応が可能な方」とあります。日本で営業事務や貿易事務を経験してきた方が、そのまま接続しやすい入口です。
営業推進・コーディネーター|アセアン各拠点を横に見る役割
このカテゴリで最も「海外拠点らしい」仕事が、営業推進とコーディネーターです。
タイをはじめアセアン地域で医療サポートと保険仲介サービスを提供する企業の営業推進担当は、営業推進室の立ち上げメンバー募集です。業務はアセアン各拠点における営業活動のサポート全般、顧客データと案件情報の集約・分析・管理、提案資料と営業ツールの作成支援、ターゲット企業のリサーチ、社内での成功事例の水平展開、日本本社とアセアン各拠点間の連絡調整、そして「CopilotやAI等の先進ツールを活用した業務効率化企画の立案・実行」まで含まれます。月給は60,000〜75,000バーツ。必須条件は大卒以上、就労経験1年以上、ExcelとPowerPointの基本操作のみで、英語日常会話は歓迎条件に置かれています。求人タイトルにも「言語不問」とあり、このカテゴリでは貴重な入口です。
もう一段上のレンジになるのが、自動車部品商社のアジア営業推進コーディネーターで100,000〜120,000バーツ。自動車メーカーおよびTier1サプライヤー向けの窓口対応、グループ各拠点との調整、製品提案と見積作成、価格交渉、受注管理を担当し、必須条件は自動車業界や機械関連での実務経験1年以上もしくは調整業務の経験、そして英語ビジネスレベル(目安TOEIC700点以上)です。
マーケティング職|デジタル運用と広告代理店の二系統
マーケティングと名のつく求人は、性格が二つに分かれます。
ひとつが自社のデジタルマーケティングを回すタイプ。英国・米国の教育情報を日本の保護者・学生に発信する外資企業のデジタルマーケティングマネージャーは、SEOのキーワード調査からコンテンツの企画・編集・品質管理、オンページSEOとテクニカルSEO、競合分析、検索広告・SNS広告・ディスプレイ広告の戦略立案と運用、ランディングページの改善、GA4やSearch Consoleを使った分析とレポーティングまでを一貫して担当します。月給70,000〜80,000バーツ。必須条件は3年以上のSEOもしくはコンテンツマーケティングの実務経験(業界不問)と英語日常会話レベル、そして年2〜3回の海外出張が可能なことです。
もうひとつがクライアントワークのタイプ。日系広告代理店のプロジェクトマネージャーは70,000〜120,000バーツで、必須条件は5年以上の広告代理店でのプロジェクトマネジメント経験とWeb・SNSマーケティングの関連業務経験、日常会話レベルの英語力です。ローカルマーケティング企業のアカウントエグゼクティブは60,000〜70,000バーツで、必須条件は営業経験5年以上と英語ビジネスレベル、歓迎条件に「官公庁自治体の入札案件のご経験」が挙がっているのが特徴的です。
Web・ECのディレクション|語学力不問でレンジが高い意外な領域
語学に不安がある方に、まず見てほしいのがこの領域です。
日系のECサイト開発運営会社は、WEB制作ディレクターとWEB運用改善ディレクターの二つを募集しており、どちらも特徴欄に「語学力不問」が付いています。にもかかわらず月給はWEB制作ディレクターが80,000〜130,000バーツ、WEB運用改善ディレクターが70,000〜90,000バーツと、営業事務より高い水準です。
その理由は必須条件を読むとわかります。WEB制作ディレクターは就業経験3年以上に加えて、Webディレクション、Webプロジェクトマネジメント、あるいは事業KPI(売上、CVR等)を目標としたWebサイトの改善経験のいずれかが必須。WEB運用改善ディレクターは大卒に加えて、ECサイトの運営・運用のディレクション経験3年以上と、データをもとに改善施策の提案・振り返りを行いPDCAを回した経験が求められます。語学ではなく、数字でサイトを動かした実績が問われる構造です。
同じくWeb系では、WEB制作・システム開発・デジタルマーケティング・映像制作・タイ進出支援を手がける企業のECコンサルタントとWEBコンサルタントが50,000〜65,000バーツ。こちらは未経験応募可で、ECコンサルタントの必須条件は大卒以上と「英語ビジネスレベル、もしくはタイ語日常会話レベル」のどちらかのみ。WEBコンサルタントはこれに加えて、プロジェクトマネジメント経験または無形商材の顧客マネジメント経験が必須条件に入ります。
経営企画・事業開発・秘書|少人数の拠点だから任される
拠点の意思決定に近いポジションも、このカテゴリに含まれています。
日系スポーツ用品メーカーの経営企画/秘書は60,000〜100,000バーツ。必須条件は「英語、タイ語日常会話上級」と、経営企画・経営戦略・事業開発、またはビジネス感覚を強く求められるエグゼクティブ秘書としての実務経験3年以上です。英語とタイ語の両方を求める求人はこのカテゴリでも少数で、拠点内の橋渡しを一手に担う位置づけがうかがえます。
日系コンサルティング会社の営業企画/事業開発は70,000〜160,000バーツ。必須条件は英語またはタイ語のビジネスレベル以上、法人営業や企画、新規事業開発の経験3年以上(業界不問)、そして「車好きの方、又は自動車業界での経験をお持ちの方」の3点です。人材コンサルティング会社の代理店開発は100,000〜130,000バーツ、ヘッドハンティング系人材紹介のリサーチャー/コンサルタントは50,000〜70,000バーツと、同じ「企画」でもレンジには幅があります。
月給5万〜20万バーツ|どこで差がつくのか
公開されている求人の給与レンジを、役割別に整理しました。
| 役割 | 月給レンジ(バーツ) | 代表的なポジション |
|---|---|---|
| 営業(メーカー・商社) | 50,000〜200,000 | 総合商社の鉄鋼/合成樹脂部門、自動車部品メーカー、電子部品商社 |
| 経営企画・事業開発 | 50,000〜160,000 | 営業企画/事業開発、代理店開発、経営企画/秘書 |
| Web・ECディレクション | 50,000〜130,000 | WEB制作ディレクター、WEB運用改善ディレクター、ECコンサルタント |
| マーケティング | 60,000〜120,000 | デジタルマーケティングマネージャー、広告代理店のプロジェクトマネージャー |
| 営業推進・コーディネーター | 60,000〜120,000 | 営業推進担当、アジア営業推進コーディネーター |
| 営業事務・営業サポート | 50,000〜100,000 | 営業事務、営業サポート、営業コーディネーター |
下限は50,000〜60,000バーツに集まっていますが、上限には大きな差があります。最も高いのは日系大手総合商社の鉄鋼部門で70,000〜200,000バーツ。次いで営業企画/事業開発が160,000バーツ、工業団地の営業マネージャー職が150,000バーツ台です。
上限を押し上げているのは、業界特有の知識と、数字に責任を持つ度合いです。逆に営業事務・営業サポートは上限が抑えられていますが、そのぶん求められる経験年数も1〜2年からと軽く、海外就職の一歩目としては現実的な選択肢になります。
バンコクか、工業団地か|始業時間と通勤が変わる
このカテゴリは、勤務地がバンコクだけではありません。チョンブリー、ラヨーン、アユタヤ、パトゥムターニーといった工業団地エリアの求人が相当数を占めます。そして働く時間のリズムが、はっきり違います。
バンコク中心部のマーケティングやWeb系は9:00〜18:00が中心です。一方で工業団地の求人は始業が早く、チョンブリーの自動車部品メーカーと電子部品商社はいずれも7:45〜16:45、パトゥムターニーの石油化学メーカーは8:15〜17:15、チョンブリーの金属リサイクルメーカーは8:00〜17:40となっています。工場の稼働時間に合わせるためです。
そのかわり、地方求人には通勤の手当てが付きます。石油化学メーカーと日系大手商社グループは社用車貸与、自動車部品メーカーのゼネラルマネージャー職はドライバー付き社用車貸与、アマタナコン勤務の電子部品商社は送迎ありと明記されています。給与レンジも地方のほうが高く出ることがあり、チョンブリーの営業・マーケティングゼネラルマネージャーは100,000〜150,000バーツです。
住む場所と生活のリズムが変わる選択なので、条件欄の勤務地と就業時間はセットで確認してください。
英語・タイ語・日本語|求人票の語学要件を正しく読む
語学要件は、同じカテゴリの中でもかなり幅があります。
最も軽いのが「言語不問」「語学力不問」と明記されたポジション。営業推進担当、WEB制作ディレクター、WEB運用改善ディレクター、そして日系樹脂原料メーカーの営業がこれにあたります。ただし語学が不問なぶん、実務経験のほうで線が引かれている点は見落とさないでください。WEB系はいずれも3年以上のディレクション経験が必須です。
次が「英語日常会話レベル」の層。営業事務、デジタルマーケティングマネージャー、広告代理店のプロジェクトマネージャーがここに入ります。営業事務の求人票には「英語日常会話レベル(社内コミュニケーションおよび業務使用)」と用途まで書かれていますが、但し書きのないものもあります。読み書き中心なのか会議で話すのかは、面談で確認しておくと安心です。
最も重いのが「英語ビジネスレベル」以上。営業サポートのTOEIC650点以上目安、アジア営業推進コーディネーターのTOEIC700点以上目安がこの層です。加えて経営企画/秘書のように「英語、タイ語日常会話上級」と両方を求めるものもあります。
ビザ・就労許可と、応募前に整理しておきたいこと
タイで働くには、ノンイミグラントBビザ(就労目的の査証)とワークパーミット(労働許可証)が必要です。掲載求人の多くは現地法人による正社員採用で、これらの手続きは採用企業が主体となって進めます。応募者が個人で申請書類を揃えて役所に通う場面はほとんどありません。
応募前に整理しておきたいのは、次の3点です。
- どの役割で入るのか:営業事務、営業推進、マーケティング、Web・ECディレクション、経営企画のどれか。求められる経験年数も語学も給与も、ここで決まります。
- 勤務地の希望をはっきりさせる:バンコクか工業団地かで、始業時間も通勤手段も住まいも変わります。社用車貸与や送迎の有無は条件欄に書かれています。
- 調整した経験を具体的に語れるようにする:このカテゴリの求人が繰り返し求めているのは、日本側と現地スタッフの間に立って物事を前に進める力です。誰と誰の間で、何が滞っていて、どう動かしたのか。エピソードで語れると強くなります。
複数の求人が英文レジュメの提出を必須にしている点も、事前に準備しておきたいところです。まずは実際の求人を眺めて、自分の経験がどの役割に接続するか確かめてみてください。
※本記事の求人情報・給与・勤務条件は、ABROADERS CAREER 掲載求人(求人掲載元:Reeracoen Thailand、2026年8月時点)に基づいています。