人事・総務だけを任される求人は少ない|8件に見る兼務の実態

「人事/総務/労務/法務」というカテゴリ名を見ると、日本の会社にある人事部や総務部のような部署を思い浮かべると思います。タイで実際に募集されているものを開いてみると、その像はかなり違います。
8件を職種名で並べると、人事総務のマネジャーが1件、管理本部のスタッフが1件、法務・リスクマネジメント・コンプライアンスのマネージャーが1件、総務と人事と経理を兼ねる課長職が1件、財務と総務を兼ねるマネージャーが1件、拠点責任者が1件、管理部門の事務が1件、そして人材紹介会社のリサーチャーまたはコンサルタントが1件です。
サイトの職種登録が「人事/総務/労務/法務」だけになっているのは2件ですが、そのうち1件は求人票の業務内容に「簡単な経理事務」「経費精算、伝票処理」が含まれています。業務の中身まで見て人事・総務に絞られているのは、リユース小売企業の人事総務マネジャー職の1件だけです。この求人は「経理業務については日本本社側で一括して対応しているため、今回のポジションの管理範囲・担当業務に含まれません。」とわざわざ書いています。残りは経理や財務を兼ねていたり、拠点全体を見る立場だったり、そもそも人材業界の営業職だったりします。実際、8件のうち4件は「財務/会計/経理/その他金融専門職」の職種にも同時に登録されています。
これはタイの日系企業の規模を考えると自然な話です。タイ法人の従業員が数十人から百数十人という規模だと、管理部門に日本人を何人も置く余裕はありません。一人が人事も総務も経理も見る。その代わり、日本の大企業の人事部にいたら十年かかるような範囲を、数年で一通り経験することになります。
逆に言えば、「人事だけをやりたい」「労務の専門家として深めたい」という希望とは噛み合いにくいカテゴリでもあります。応募する前に、募集要項の業務内容を読んで、どこまでが自分の担当になるのかを見ておく必要があります。
タイ語が必須の求人が2件|「社内公用語はタイ語」と書く会社

このカテゴリの語学要件には、他の職種にはない偏りがあります。英語ではなくタイ語を必須にしている求人が2件あるのです。
チョンブリーのリサイクル・環境分野の事務職は、必須条件の1行目が「日常会話レベルのタイ語」。英語のレベルは初級で構わないとしています。
もう1件、バンコクの化粧品メーカーの管理本部スタッフ職は、さらに踏み込んだ書き方をしています。必須条件が「タイ語(日常会話)※社内公用語はタイ語となります。」という一文で、英語のレベル欄は指定なし。つまり英語はまったく問われず、タイ語だけが問われるポジションです。
これは人事や総務という仕事の性質を考えると腑に落ちます。給与計算、社会保険の手続き、労働許可の更新、就業規則の運用、スタッフからの相談対応。これらの相手はほとんどがタイ人スタッフであり、やり取りする役所の書類もタイ語です。英語が使える場面は、日本本社への報告と、社内の一部の管理職とのやり取りに限られます。
すでにタイに住んでいて日常会話ができる人にとって、このカテゴリは英語のスコアに関係なく入口が開いているということです。逆に日本から応募する場合、タイ語がまったくできないと選べる求人が減ります。
職種未経験を歓迎している求人が1件|条件はタイ語とエクセルだけ

管理部門の求人は経験者に限られるのが普通ですが、今回の8件には例外が1件あります。
先ほどの化粧品メーカーの管理本部スタッフ職は、求人タイトルに「職種未経験者大歓迎」と入れています。必須条件は「タイ語(日常会話)※社内公用語はタイ語となります。」と「簡単なエクセル操作ができること」の2つだけ。歓迎条件に「タイ在住者」「総務や人事、経理経験者」が挙げられていますが、いずれも必須ではありません。
経験レベルの欄も「ジュニアレベル、シニアレベル、マネージャーレベル」と幅広く取られていて、若手からベテランまで幅を持たせた募集であることがわかります。月給は50,000〜65,000バーツです。
タイ語ができて、日本でまったく別の仕事をしていた人が管理部門に入る。このカテゴリでそれが成立するのは、業務の中身がタイ語でのコミュニケーションと事務処理に集中していて、専門知識は入社後に覚えられるという前提があるからです。
とはいえ、経験をまったく問わない求人はこれだけではありません。チョンブリーのリサイクル・環境分野の事務職も、必須条件は「日常会話レベルのタイ語」「パワーポイントやExcelが使用できる方」「データ集計が可能な方」「自力通勤できる方」「タイ現地で対面面接可能な方」の5つで、就業経験や職種経験には触れていません。
さらに人材紹介会社の求人は、必須条件に業界経験を挙げながら、業務内容の説明では「人材業界経験者の方はコンサルタント(以下の表より2もしくは3)スタート、未経験の方はリサーチャー(1)スタートとなります。」と書いています。条件欄と本文で書きぶりが違うので、業界未経験でも相談の余地があると読めます。
残りの5件は、人事総務の実務経験、法務・コンプライアンスの実務経験、バックオフィスのマネジメント経験といった形で、何らかの経験を必須にしています。全体としては経験者向けのカテゴリですが、入口が完全に閉じているわけではありません。
日本のカレンダーで休む求人が1件|ソンクラン休暇なしという条件

タイで働くなら、4月のソンクラン(タイ正月)は数日まとまって休みになる。そう思っている人が多いと思います。ところが今回の8件には、そうならない求人が1件混じっています。
バンコクのヘッドハンティング系人材紹介会社の求人です。休日欄には「土曜日、日曜日」「祝日(日本のカレンダーに準ずる)」「長期休暇有り(GW休暇、お盆休暇、年末年始休暇 ※ただしソンクラン休暇は無し)」と書かれています。
タイにいながら、ゴールデンウィークとお盆と年末年始で休む。タイの祝日ではなく日本の祝日で動く。これは顧客が日本企業であることに由来する設計です。日本の本社が動いている日に休むわけにいかず、日本が休んでいる日に合わせて休む。日系向けの人材紹介やコンサルティングでは、こうした形をとる会社があります。
残りの7件はタイの祝日で動きます。大手商社の法務職は「土日、タイ祝日」と明記していますし、リユース小売企業の人事総務マネジャー職は「年間祝日数:13日」と数字で書いています。
どちらが良いという話ではありません。ただ、タイに住んでいながら4月中旬に休めないというのは、生活の実感としてかなり大きい違いです。家族がいる場合はなおさらで、応募前に休日欄を読んでおく価値があります。
チョンブリー4件とバンコク4件|ちょうど半々に分かれる

勤務地はチョンブリーが4件、バンコクが4件で、きれいに半分ずつに分かれています。他の職種カテゴリではバンコク以外が大きく上回ることが多いので、このバランスは特徴的です。
チョンブリー側の4件は、いずれも工場を持つメーカーです。リサイクル・環境、金属加工、特殊鋼材加工、切削部品加工。工業団地のなかにある管理部門で、タイ人スタッフの労務管理と本社への報告が仕事の中心になります。
バンコク側の4件は顔ぶれが分かれます。大手商社の法務・コンプライアンス、リユース小売企業の人事総務、人材紹介会社のコンサルタント。この3件は製造現場を持たない分、扱う課題も制度設計や契約管理、採用といった方向に寄ります。ただし残る1件、化粧品メーカーの管理本部スタッフ職は勤務地がバンコクのラートクラバンで、求人票には「タイに第二の工場を設立!」「【社内の環境】・従業員約300名」と書かれています。バンコク勤務でも工場の庶務という組み合わせがあるということです。
この違いは、応募先を選ぶときの実質的な分かれ目になります。工場の管理部門は、現場のタイ人スタッフとの距離が近く、労務トラブルや勤怠、安全といった話が日常的に発生します。バンコクのオフィス側は、制度や契約といった机の上の仕事の比重が高くなります(ただし上に書いたとおり例外もあります)。どちらが向いているかは、これまでの経験と好みによります。
生活面でも違いがあります。バンコク中心部の家賃はコンドミニアムで月2万バーツ台が一つの目安で、チョンブリーの工業団地周辺なら1万バーツ前後で同等以上の広さが借りられます。チョンブリー県のシラチャには日本人コミュニティがあり、日本食のスーパーや日本人学校も揃っているので、地方勤務のハードルは思われているほど高くありません。
学歴を必須条件にしているのは1件だけ

8件の応募条件を見ると、学歴を必須条件に挙げているのは1件だけです。人材紹介会社の求人が「学歴:大卒以上」としています。
この求人はさらに「資格:5年以上の就業経験 or 関連学部卒+2年以上の関連職種の就業経験」という条件を置いていて、経歴の組み合わせで判断する設計になっています。歓迎条件には「言語:英語ビジネスレベル以上(TOEIC 800点以上であれば尚可)」も入っています。
残りの7件は必須条件で学歴に触れていません。歓迎条件まで広げると、大手商社の法務職が「MBAまたはLLMまたは弁護士資格保有者(日本・タイ・シンガポール等)」を挙げていますが、これも必須ではありません。触れていないということは、実務経験で判断するという意味だと考えていいと思います。
管理部門の仕事は、何を学んだかより何を回してきたかで評価されます。何人規模の組織を見ていたか、給与計算を自分で回していたか、労働組合や労使交渉の経験があるか、就業規則を作り直したことがあるか。こうした具体的な話が職務経歴書に書けるなら、学歴の欄は決定的な要素になりません。
英語ビジネスレベルは3件|法務・財務・人材紹介

語学要件を英語だけで整理すると、ビジネスレベルが3件、日常会話レベルが2件、初級レベルが2件、指定なしが1件です。
ビジネスレベルを求めている3件は、大手商社の法務・リスクマネジメント職、切削部品加工メーカーの財務・総務マネージャー職、そして人材紹介会社のリサーチャー/コンサルタント職です。
法務職は東南アジアとインドを含む地域全体のガバナンスを見るポジションで、必須条件に「英語ビジネスレベル以上且つ英語を使用した業務経験(TOEIC 660点以上目安)」と書かれています。他国の拠点と英語でやり取りする前提です。財務・総務マネージャー職は「月1回のインド出張(約1週間)対応可能な方」も条件に入っていて、こちらも国をまたぐ業務が発生します。
残りの5件は、英語の水準がかなり低く設定されています。日常会話レベルが2件、初級レベルが2件、そして指定なしが1件。前に触れたとおり、このカテゴリではタイ語のほうが実務に直結する場面が多いためです。
英語のスコアが高くないことを理由にあきらめる必要はありません。ただし、英語を求められない求人はその分タイ語か実務経験のどちらかが問われると考えておいたほうが現実的です。
日本の社会保険料を手当で出す求人|福利厚生の書き方に差がある

求人票の福利厚生欄は読み飛ばされがちですが、このカテゴリは会社ごとの差がはっきり出ていて読む価値があります。
もっとも変わっているのが化粧品メーカーの管理本部スタッフ職です。「日本の社会保障分手当(3〜5万円:日本の社会保健、厚生年金、海外傷害保険加入分として支給します)」という項目があり、日本の社会保険や年金を自分で払い続ける人に、その分を手当として出すという設計です。タイの現地採用でここまで書いている求人は多くありません。
この求人は他の項目も細かく、「家賃補助(工場から半径5キロにお住まいの方:2,000THB)」「交通費支給(1600THBまで / 目安:住居から5キロ以内600THB、15キロ未満1200THB、15キロ以上1600THB)」「通勤補助(オンヌットからの乗り合い通勤可能、乗り合いを利用する場合は交通費の支給なし)」と、金額と条件が並んでいます。
対照的に、特殊鋼材加工メーカーの拠点責任者職は、もらえるものだけでなく、もらえないものも書いています。「社会保険(医療保険): 有り 但し、MDに関しては社会保険はなく、民間の医療保険に加入(会社の補助なし)」「退職金:定年まで勤務した場合は労働法により決められた退職金支給、自己都合での退職は退職金なし」といった具合です。この求人は「定年退職年齢:60歳」も明記しています。
チョンブリーのリサイクル・環境分野の事務職は「プロビデントファンド(2%または3%で選択可能)」「制服支給(入社時に3着、試用期間通過後に追加2着支給)」まで書いています。細かく書いてある求人ほど、入社後の齟齬は起きにくいと考えていいと思います。
賞与・役職手当・ウィークリーボーナス|月給だけでは見えない部分

月給の額だけを並べて比べると、実際の手取りとはかなりずれます。
リユース小売企業の人事総務マネジャー職は、月給50,000〜65,000バーツと8件のなかでは低めですが、福利厚生欄に「役職手当(マネジャー):20,000THB(マネジャー登用後支給)」「賞与(年1回、平均2か月)」と書かれています。マネジャーに上がれば月額が2万バーツ増える計算で、月給のレンジだけを見るのとは印象が変わります。
化粧品メーカーの管理本部スタッフ職も「賞与(年2回 / 平均合計2ヶ月)」「役職手当」「通信費(月300THB)」を挙げています。
もっとも変わっているのが人材紹介会社の求人です。「ウィークリーボーナス(個人の実績により毎週支給 / 月平均10,000~20,000THB)」「業績給(個人の実績により四半期ごと支給)」「インセンティブ旅行(個人の実績により)」と、成果に連動する項目が並んでいます。基本給もポジションごとに公開されていて、「G1リサーチャー / 50,000THB〜」「G2アソシエイトコンサルタント / 52,000THB〜」「G3コンサルタント / 60,000THB〜」「G4シニアコンサルタント / 80,000THB〜」「G5シニアマネージャー / 100,000THB〜」という段階になっています。
この求人にはもう一つ珍しい記載があります。「BOI企業のため年収が2.5ミリオンTHBを超えると所得税は一律15%となります。」というものです。求人票に税率の話まで書く会社は珍しく、それだけ実際に届く水準を想定しているということだと思います。ただしこれは掲載企業側が自社の状況として書いているもので、BOI(タイ投資委員会)の認可そのものに外国人の個人所得税を軽減する恩典が含まれているわけではありません。外国人の一律課税はIBC(国際ビジネスセンター)など別の制度に基づくもので、適用の可否は会社ごとに異なります。気になる場合は面接で確認してください。
月給5万〜16万バーツ|レンジの決まり方

給与のレンジは、下限50,000バーツから上限160,000バーツまでです。
下限50,000バーツの求人は4件あります。リサイクル・環境分野の事務職(50,000〜70,000バーツ)、リユース小売の人事総務マネジャー職(50,000〜65,000バーツ)、化粧品メーカーの管理本部スタッフ職(50,000〜65,000バーツ)、人材紹介会社のリサーチャー/コンサルタント職(50,000〜70,000バーツ)です。半分が同じ下限で並んでいることになります。
上限160,000バーツは2件。特殊鋼材加工メーカーの拠点責任者職(130,000〜160,000バーツ)と、切削部品加工メーカーの財務・総務マネージャー職(100,000〜160,000バーツ)です。前者は経営幹部ポジションで必須条件に「MD経験」「自動車業界での経験」が入っており、後者はインド法人の税務対応と月1回のインド出張を含みます。
この分布から読み取れるのは、このカテゴリでは中間層が薄いということです。50,000バーツ台のスタッフ・マネジャー職と、130,000バーツ以上の拠点責任者クラスに分かれていて、その間にあるのは金属加工メーカーの課長職(70,000〜110,000バーツ)と大手商社の法務職(90,000〜150,000バーツ)の2件だけです。
管理部門でレンジを押し上げているのは、担当する領域の広さと、責任の範囲です。人事だけを見るのか、管理部門全体を見るのか、拠点そのものの経営に責任を持つのか。職種名よりもこの点を見たほうが、提示額の理由がわかります。
ビザ・就労許可と、応募前に整理しておきたいこと

タイで働くには、就労ビザ(ノンイミグラントB)と労働許可証(ワークパーミット)の両方が必要です。ビザは本人が申請します(現在はe-Visaによるオンライン申請が中心です)。ただし、その際に企業側が発行する招聘状などの書類が必要になるため、採用が決まらないうちに個人だけで進めることはできません。労働許可証は入国後に申請しますが、申請者は本人で、労働省への出頭と署名が必要です。必要書類の準備や手続きの段取りは会社側が代行するのが通例です。
このカテゴリで働く場合、一つ知っておくと役に立つことがあります。人事・総務の担当になると、自分だけでなく他の日本人駐在員や現地採用社員のビザと労働許可の更新を回す側になることが多いという点です。タイでは外国人1名の雇用に対して一定数のタイ人雇用と登録資本金が必要という規定があり、この枠の管理も管理部門の仕事になります。面接で「ビザ関連の実務はどこまで担当しますか」と聞いておくと、業務範囲のイメージが具体的になります。
もう一つ、タイ労働法の知識は入社後に覚える前提で構いません。ただし、日本の労働基準法とは違う点がいくつかあります。解雇予告と解雇補償金の考え方、年次有給休暇の付与日数(法定は勤続1年で6日)、病気休暇は日数の上限がなく賃金の支払い義務が年30労働日までとされていること、社会保険と労災の扱いなど、日本の常識のままだと判断を誤る領域です。求人票の福利厚生欄に「有給休暇:6日/年」「病気休暇:30日/年」といった数字が並ぶのは、この法定基準を反映しているためです。
応募前に整理しておくと動きやすいのは、次の3点です。第一に、自分が回してきた業務の範囲。採用だけか、給与計算まで見ていたか、就業規則や評価制度を作った経験があるか。管理部門は範囲の広さがそのまま評価につながります。第二に、タイ語の習熟度。このカテゴリでは英語より効く場面があります。第三に、勤務地と求める仕事の性質の組み合わせ。工場の労務管理とバンコクの制度設計では、同じ「人事」でも中身がまったく違います。
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