タイで働きたいと思ったとき、多くの人が最初に引っかかるのが英語です。TOEICは何点あればいいのか、日常会話レベルで通用するのか、まったく話せなくても仕事はあるのか。この疑問に、感覚ではなく数字で答えてみます。
2026年9月時点でABROADERS CAREERに掲載されているタイの求人220件について、語学に関する条件を全部数えました。その結果、思っていたより間口は広いことがわかりました。
220件のうち語学力不問は32件|まず全体の数を押さえる
いちばん知りたいのはここだと思います。タイの求人220件のうち、「語学力不問」の条件がついているものは32件でした。全体の約15%、およそ7件に1件です。
この数字をどう受け取るかは人によると思いますが、海外求人の1割以上が語学を問わないというのは、少なくとも「英語ができないと海外では働けない」という前提が成り立たないことを意味します。
あわせて、「日常会話レベルの英語力で応募可能」の条件がついているものが28件あります。この2つの条件を両方満たす求人は1件だけなので、重複を除くと59件。ビジネスレベルの英語を求めない求人が相当数あるのは確かです。
逆に「英語力が活かせる」の条件がついているのは40件でした。英語を強みとして打ち出せる求人が40件、英語を問わない求人が32件。数の上ではそれほど大きな差がありません。
タイは日系企業の進出が非常に多い国です。外務省が公表している「海外在留邦人数調査統計」の進出日系企業数一覧でも、タイは長年上位に入り続けてきました。日本人が日本人の上司や本社とやり取りしながら、タイ人スタッフと現場を回す。この構造が、語学要件の低い求人を生んでいます。
TOEICの点数を条件に出す求人は7件だけ
日本で転職活動をしていると、TOEICのスコアを気にする場面が多いと思います。タイの求人ではどうか。
「TOEIC 700点以上」の条件がついている求人は、220件のうち7件でした。全体の約3%です。
個別の求人票を読んでいくと、点数を書いている求人はもう少しありますが、いずれも「目安」という言い方をしています。実際に見つかった表記を並べると、こうなります。
大手商社の法務・コンプライアンス職は「英語ビジネスレベル以上且つ英語を使用した業務経験(TOEIC 660点以上目安)」。精密部品メーカーの経理職は「言語: 英語(目安としてTOEIC 600点以上)」。ヘッドハンティング系人材紹介会社は歓迎条件として「言語:英語ビジネスレベル以上(TOEIC 800点以上であれば尚可)」。
600点、660点、800点。いずれも「目安」「であれば尚可」という留保がついていて、点数で機械的に切るという書き方にはなっていません。
これは実務を考えれば当然で、TOEICの点数と、タイ人スタッフに指示を出せるかどうかは別の能力だからです。点数が低くても現場で通じる人はいますし、その逆もあります。履歴書に書ける材料として持っておく価値はありますが、点数が足りないから応募できないと考える必要はありません。
求人220件の英語レベルを全部数えた|もっとも多いのは日常会話レベル
ABROADERS CAREERの求人票には「英語」という欄があり、レベルが番号付きで表示されます。数字が大きいほど求められる水準が低くなります。タイの求人220件をこの欄で分類すると、次のようになりました。
Level 2 - Advanced Level(上級)が3件、Level 3 - Business Level(ビジネスレベル)が51件、Level 4 - Conversational Level(日常会話レベル)が84件、Level 5 - Beginner Level(初級レベル)が38件、Level 6 - None(指定なし)が44件。合計で220件です。
もっとも多いのは日常会話レベルの84件で、全体の約4割。次に多いのが指定なしの44件です。この2つを合わせると128件で、全体の6割近くを占めます。ビジネスレベル以上を求めているのは54件、全体の約4分の1にとどまります。
ここでひとつ注意があります。「語学力不問」の条件がついているのは32件、英語欄がLevel 6 - Noneなのは44件で、この2つは一致しません。あとで触れる技術設計職は「語学力不問」の条件がついていますが、英語欄はLevel 4 - Conversationalです。逆に英語欄がLevel 6 - Noneでも、応募条件の本文でタイ語を求めている求人があります。
結論として、求人を開いたら「英語」欄、「その他言語」欄、そして応募資格の本文という3か所を必ず見てください。1か所だけを見て判断すると読み違えます。
英語欄がLevel 6 - Noneでも、「その他言語」の欄にThaiと書かれていればタイ語が必須です。この組み合わせは実際に存在します。
職種によって語学の重さがまるで違う
ここからが本題です。語学力不問の求人がどの職種に集まっているかを調べると、はっきりした偏りが出ました。
掲載件数が10件以上ある職種のなかで、もっとも比率が高いのは設計開発エンジニア(機械/電気/制御/金型/R&D)です。21件のうち7件が語学力不問で、ちょうど3件に1件。エグゼクティブ/経営も6件のうち2件と同じ比率です。次いで建設/土木/施工管理が18件のうち5件、ITエンジニア(オープン系/汎用系)が15件のうち4件と続きます。
逆に低いのが営業/セールスエンジニアです。タイの求人でもっとも件数が多い職種で90件ありますが、語学力不問はそのうち5件だけ。18件に1件という計算になります。接客/カスタマーサービス/飲食/コールセンターも15件のうち1件、コンサルティングも14件のうち1件と低い水準です。物流/倉庫管理にいたっては6件すべてに語学の条件がついていて、語学力不問はゼロでした。
この差は仕事の性質をそのまま反映しています。営業や接客、コンサルティングは、言葉そのものが仕事の道具です。相手の要望を聞き、提案し、合意を取り付ける。ここを通訳越しにやるのは難しい。
一方で設計やエンジニアリングは、図面や数式やコードという共通言語があります。日本人の技術者とタイ人のオペレーターが、同じ図面を指さしながら話す。この場面では、語学より技術の中身のほうがはるかに重要になります。
もし英語に自信がないなら、職種を選ぶところから考え直すほうが近道かもしれません。
上限300,000バーツの求人が2件|片方は語学力不問
「語学力不問の求人は条件が悪いのでは」と思われるかもしれません。実際に調べると、そうとも言えませんでした。
タイの求人220件のなかで、給与の上限がもっとも高いのは月給300,000バーツです。該当するのは2件でした。
1件はバンコクのITコンサルティング会社のSAPコンサルタント職。必須条件は「英語ビジネスレベル」と「5年以上のSAPコンサルタント経験者(ビザの取得要件)」です。英語が必須です。
もう1件はチョンブリーの自動車部品メーカーの技術設計職(月給200,000〜300,000バーツ)。この求人には「語学力不問」の条件がついています。必須条件は「部品設計および製造工程について管理されてきたご経験 (理想10年以上)」と「Auto CAD / Solid work が扱えること (ビジネスレベル)」の2つ。ここで「ビジネスレベル」と言われているのは英語ではなくCADソフトの習熟度です。
同じ提示額の2件で、語学の扱いが正反対になっている。これがタイの求人市場の実態をよく表しています。高い報酬は語学の対価ではなく、専門性の対価だということです。
ほかにも、バンコクの日系大手サブゼネコンの空調システムエンジニア職と電気設備エンジニア職は、どちらも月給70,000〜200,000バーツで語学力不問です。前者の必須条件は施工管理またはプラントエンジニアリングの経験、機械工学・電気電子工学・化学工学の学部卒であること、空調設備の施工管理経験、そして1級管工事施工管理技士の4つ。語学は歓迎条件に「英語もしくはタイ語でコミュニケーションとれる方」と書かれているだけです。
「通訳の採用を検討可」と書く会社|語学の壁を会社側が埋める
語学力不問の求人を読んでいくと、会社がどうやってその壁を埋めているのかが見えてきます。
もっともはっきり書いているのが、先ほどの自動車部品メーカーの技術設計職です。歓迎条件に「英語 or タイ語でメンバーとコミュニケーションが取れる (不可の場合は通訳の採用を検討可)」とあります。応募者が言語を話せないなら、会社が通訳を雇うことを検討する、という意味です。
すでに通訳を置いている会社もあります。チョンブリーの切削部品加工メーカーの技術部マネージャー職は、必須条件に「言語:不問(社内に通訳常駐)」と書いています。
大手自動車メーカーの生産技術職は必須条件の1行目が「言語不問」。日系加工メーカーの生産技術マネージャー〜GM職は「学歴、言語不問(日本採用の場合は大卒以上)」です。いずれも月給の上限は150,000バーツで、待遇として低いわけではありません。
ここからわかるのは、タイの日系メーカーにとって、日本人技術者を採ることの価値が語学の問題を上回る場面があるということです。設備の立ち上げ、不良の原因追及、日本本社との技術的なやり取り。これらができる人材は代えがきかず、言語は仕組みで解決すればよいと判断されています。
未経験と語学力不問が重なる求人もある
語学力不問の求人がすべて熟練者向けかというと、そうでもありません。
チョンブリーのゴム製品の製造設備/金型製造メーカーのCADオペレーター職は、求人タイトルに「未経験歓迎」と入っています。必須条件は「言語不問」「機械系もしくは建築系知識をお持ちの方」「CAD設計に興味がある方」の3つで、英語のレベル欄はLevel 6 - None。月給は50,000〜80,000バーツです。
バンコクのECサイト開発運営会社のWEBデザイナー職も、求人タイトルに「語学力不問!現地採用多数活躍」と入れています。こちらは未経験ではなく「大卒」と「就業経験が5年以上で下記の実務経験がある方」を求めています。ただしその実務経験として挙げられているのは広告バナーやランディングページのデザイン、Adobe Photoshopでの写真補正・加工、Adobe Illustratorでのグラフィックデザインの3つで、ポートフォリオの提出とあわせて問われているのは語学ではありません。月給60,000〜90,000バーツ、年間休日126日という条件です。
語学力不問の求人には、「技術で入る」道と「未経験でも興味があれば入れる」道の両方があるということです。
英語よりタイ語が効く求人がある
ここまで英語の話をしてきましたが、タイで働く以上、タイ語の話を飛ばすわけにはいきません。
調べていて印象的だったのは、英語をまったく問わない代わりにタイ語を必須にしている求人が存在することです。
バンコクの化粧品メーカーの管理本部スタッフ職は、必須条件が「タイ語(日常会話)※社内公用語はタイ語となります。」という一文。英語のレベル欄は指定なしです。この求人は「職種未経験者大歓迎」も掲げていて、必須条件のもう一つは「簡単なエクセル操作ができること」だけです。
チョンブリーのリサイクル・環境分野の事務職も、必須条件の1行目が「日常会話レベルのタイ語」で、英語のレベルは初級。求人タイトルにも「タイ語を活かせる」と入っています。
この傾向は人事・総務・経理といった管理部門に強く出ます。給与計算、社会保険の手続き、労働許可の更新、役所への提出書類。相手はほとんどがタイ人で、書類もタイ語です。英語が必要になるのは日本本社への報告と一部の管理職とのやり取りだけ、という職場は珍しくありません。
すでにタイに住んでいてタイ語の日常会話ができる方は、英語のスコアに関係なく選べる求人があるということを覚えておいてください。
語学力不問の求人が、代わりに求めているもの
語学を問わない求人は、その分どこかで線を引いています。今回見た求人から拾うと、代替として求められているのは主に3つでした。
ひとつは経験年数です。技術設計職の「理想10年以上」、SAPコンサルタント職の「5年以上」、生産技術職の「5年以上」。語学を見ない分、実務の厚みで判断するという設計です。
ふたつめは資格です。空調システムエンジニア職の「1級管工事施工管理技士」がその典型で、必須条件に国家資格が入っています。日本語教師の求人が「日本語教員登録証」を必須にしているのも同じ構図です。
みっつめは具体的な道具の習熟度です。「Auto CAD / Solid work が扱えること (ビジネスレベル)」「Adobe Photoshopを使用した写真補正・加工の実務経験」「CNCマシンを使用した機械加工の経験者」といった書き方で、何が使えるかが問われます。
語学ができないことは、この3つのどれかで埋められるということです。逆に言えば、語学も経験も資格も特定の技術もない状態から入るのは、どの職種でも簡単ではありません。
応募前に整理しておきたい3つのこと
最後に、実際に動くときの手順をまとめます。
第一に、自分の英語レベルを正直にどこかに置いてみてください。求人票の「英語」欄はLevel 2の上級からLevel 6の指定なしまで段階が分かれていて、実務の感覚に置き換えると、ビジネスレベルは会議で議論できる水準、日常会話レベルはメールの読み書きと込み入らない会話ができる水準です。自分がどこにいるかが決まれば、見るべき求人の範囲も決まります。
第二に、語学以外に何を差し出せるかを書き出してください。経験年数、保有資格、使えるソフトや機械の名前。この3つが具体的に書けるほど、語学の比重は下がります。職務経歴書には抽象的な業務内容ではなく、機械名・ソフト名・工程名を並べたほうが効きます。
第三に、職種を一つに絞らないことです。今回のデータが示したとおり、語学要件の重さは職種によって大きく違います。営業で探して見つからなくても、設計やエンジニアリングの領域には語学力不問の求人がまとまって存在します。自分の経験が別の職種名で募集されていないか、一度広げて見てみる価値があります。
そのうえで、英語は入社後に伸ばす前提で構いません。タイの日系企業には日本人の同僚がいて、通訳がいて、日本語で相談できる環境があることが多い。完璧な語学力を用意してから動くより、入ってから必要な範囲で身につけるほうが現実的です。
掲載中の求人は随時更新されます。語学要件は求人票の「英語」欄と「その他言語」欄、そして応募資格の本文の3か所を必ず確認してください。条件が合いそうなものがあれば、詳細ページで最新の内容をご覧ください。
この記事のデータについて
本文の集計は、2026年9月15日時点でABROADERS CAREERに掲載されているタイの求人220件を対象に、検索条件「語学力不問」「日常会話レベルの英語力で応募可能」「英語力が活かせる」「TOEIC 700点以上」の該当件数、各求人の「英語」欄のレベル、および職種別の内訳を数えたものです。求人票からの引用は各求人の応募資格欄・英語欄・福利厚生欄の記載に基づいています。
なお、1件の求人が複数の職種に登録されることがあるため、職種別の件数を合計しても220件にはなりません(全職種の合計は301件)。職種別の比率を比べる際は、掲載件数が10件以上ある職種を対象にしています。