「エグゼクティブ/経営」の6件は、ほとんどが工場のトップ

経営職の求人と聞くと、バンコクの高層オフィスにいる法人代表や事業責任者を思い浮かべるかもしれません。タイで実際に募集されているものを開くと、その像はかなり違います。
このページに出ている求人を職種名で並べると、工場長が2件、工場長または副工場長候補が1件、拠点責任者が1件、技術設計が1件、将来の社長候補が1件です。6件のうち4件が、工場のトップまたはそれに準じるポジションということになります。
これはタイにおける日系企業の形をそのまま反映しています。タイに進出している日系企業の多くは製造業で、現地法人の実体は工場です。その工場を回すトップが、そのまま現地法人の経営者に近い立場になる。だからこのカテゴリは「工場長」で埋まります。
もう少し踏み込むと、求められている仕事の中身も日本の経営職とは違います。数百人規模のタイ人従業員の労務管理、日本本社への報告、生産性と品質の数字づくり、そして現場に立つこと。求人票の歓迎条件に「製造、生産技術、品質管理など製造現場にまつわる技術的バックグラウンド」「現場と経営の双方を統括できるリーダーシップ」と書かれているのは、経営者でありながら現場を離れられない立場だからです。
残る2件のうち1件は日系建設会社の「将来の社長候補」で、こちらはバンコク勤務。もう1件は自動車部品メーカーの技術設計職で、職種名は技術職ですがマネージャーレベルの募集としてこのカテゴリにも登録されています。
上限300,000バーツ|タイの求人全体でも最高額がここにある

このカテゴリの特徴がもっともはっきり出るのが給与です。
6件のレンジは、下限がもっとも低いもので100,000バーツ、上限がもっとも高いもので300,000バーツ。6件すべてが下限100,000バーツ以上に設定されています。タイの求人全体では下限50,000〜70,000バーツ台が中心なので、明確に別の階層です。
上限300,000バーツを提示しているのは、チョンブリーの自動車部品メーカーの技術設計職(200,000〜300,000バーツ)です。この金額はタイの求人全体を見渡しても最高額で、同額はもう1件しかありません。
次いで高いのが同じくチョンブリーのダイカストメーカーの工場長または副工場長候補(170,000〜280,000バーツ)、パトゥムターニーの印刷製造メーカーの工場長(170,000〜250,000バーツ)です。タイの求人を給与上限の高い順に並べると、上位5件のうち3件がこのカテゴリから出てきます。
残りの3件は、飲料ボトルメーカーの工場長が150,000〜200,000バーツ、特殊鋼材加工メーカーの拠点責任者が130,000〜160,000バーツ、建設会社の社長候補が100,000〜150,000バーツです。
駐在員雇用が1件、切替制度ありが1件|制度の土台が分かれる

タイで働く日本人の待遇は、現地採用か駐在員かで大きく変わります。このカテゴリでは6件のうち2件が、この点に踏み込んで書いています。ただし中身は別物で、1件は最初から駐在員として採用するもの、もう1件は現地採用から切り替える制度があるというものです。
パトゥムターニーの印刷製造メーカーの工場長職は、求人タイトルに「駐在員雇用!」と入れています。この求人の福利厚生欄がほかの5件とまったく違っていて、「各種社会保険完備 (健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険)」と、日本の制度がそのまま並んでいます。
ほかにも「賞与:年2回(7月・12月)※前年実績:年間3.2ヶ月分」「有給休暇:入社半年後に10日付与、最大20日」「残業月平均:約20時間※固定残業代なし※時間外労働分は別途支給」「育児短時間勤務制度」「介護短時間勤務制度」と、日本の会社の就業規則がそのまま持ち込まれています。給与も「年収:1,000~1,500万円 月収総支給額:900,000円~1,200,000円」と円建てで示され、食事手当は「出勤1日あたり120円」です。
ただし手厚い一方で、書かれていないことにも注意が必要です。この求人の福利厚生欄には「※海外赴任に伴う渡航費・引越し費用については、原則として会社負担なし ※引越し費用については個別相談」とあります。駐在員雇用だからといって、赴任にかかる費用が自動的に出るとは限りません。
もう1件、チョンブリーのダイカストメーカーの工場長または副工場長候補は、タイトルに「本社採用切り替え実績あり」と書き、福利厚生欄には「駐在員切り替え制度あり」と明記しています。こちらは入口が現地採用で、福利厚生欄はタイ国社会保険と「民間医療健康保険(応相談)」が基本です。ただし同時に「本社採用社員となった際に日本、タイ、インドの3か国で異動が発生することがございます。」という一文も置かれています。本社採用になるということは、次の赴任地を自分では選べなくなるということでもあります。
6件の福利厚生欄を並べて読むと、日本の社会保険が適用されるのは印刷製造メーカーの1件だけで、残る5件はタイ国社会保険と民間の医療保険が基本だとわかります。日本の年金や雇用保険をどうするかは、自分で考える必要があります。
「日本語、タイ語、英語すべてがビジネスレベル」という条件

6件の語学要件を並べると、振れ幅の大きさに驚かされます。
もっとも厳しいのが、先ほどの印刷製造メーカーの工場長職です。必須条件に「日本語、タイ語、英語すべてがビジネスレベル」と書かれています。英語のレベル欄はLevel 3 - Business Level、その他言語の欄にはThaiと入っていて、欄の上でも3言語が確認できます。
この求人はほかの条件も重く、「大卒以上」「製造業における役員クラスまたは拠点長・工場長などの統括マネジメント経験」「従業員100名以上での製造工場での勤務経験」が必須です。駐在員雇用で日本の制度がついてくる分、入口は狭くなっているという構図です。
残りの5件は、英語欄で見ると日常会話レベルが3件、初級レベルが1件、指定なしが1件です。建設会社の社長候補職は「英語もしくはタイ語日常会話レベル(社内コミュニケーションのため)」という書き方で、どちらか片方でよいとしています。ダイカストメーカーは応募条件の本文に「英語日常会話レベル(簡単なコミュニケーションが取れるレベル)」と書いていますが、英語欄はLevel 5の初級です。条件欄の言葉とレベル欄がずれることがあるので、両方を見てください。
「英語不問(社内には通訳あり)」と書く工場長求人もある

語学要件の逆の端にあるのが、タイ上場企業の飲料ボトルメーカーの工場長職です。
必須条件は4つで、「ガラス製造業エンジニア経験者」「製造過程の改善、改良をされてきた経験をお持ちの方」「年齢不問 (シニアの方を想定)」、そして「英語不問 (社内には通訳あり)」。英語のレベル欄もLevel 6 - Noneです。月給は150,000〜200,000バーツで、待遇として低いわけではありません。
チョンブリーの自動車部品メーカーの技術設計職も近い立場を取っています。必須条件に語学は入っておらず、歓迎条件に「英語 or タイ語でメンバーとコミュニケーションが取れる (不可の場合は通訳の採用を検討可)」と書かれています。応募者が言語を話せないなら会社が通訳を雇うことを検討する、という意味です。この求人は月給200,000〜300,000バーツです。
3言語ビジネスレベルを求める求人と、通訳を雇ってでも来てほしいと書く求人が、同じカテゴリに並んでいる。経営職の採用において、語学が絶対条件ではないことがはっきり出ています。
ただし誤解のないように補足すると、語学を問わない求人は代わりに技術と経験を厳しく見ています。ガラス製造業のエンジニア経験、製造工程の改善経験。この階層で代替がきかないのは語学力ではなく、特定の産業の中で積み上げた実務のほうだということです。
経験10年がひとつの線|ただし何の10年かは求人で違う

必須条件に経験年数を書いている求人は6件のうち3件です。
もっとも長いのがダイカストメーカーの工場長職で、「自動車(部品)業界での経験10年以上または工場運営管理経験」。業界での10年か、工場運営の管理経験か、どちらかという設計になっています。自動車部品メーカーの技術設計職も「部品設計および製造工程について管理されてきたご経験 (理想10年以上)」と書いていますが、こちらは「理想」という言葉で少し幅を持たせています。
建設会社の社長候補職は「5年以上の建設業界の経験を有する方」と「マネジメント経験を有する方」。ここでは10年ではなく5年が線になっています。この求人はさらに「CADの操作に精通している方」も必須にしていて、社長候補という職種名でありながら実務のスキルが問われます。
残りの3件は年数を書かず、経験の中身で指定しています。印刷製造メーカーの工場長職は「製造業における役員クラスまたは拠点長・工場長などの統括マネジメント経験」「従業員100名以上での製造工場での勤務経験」、飲料ボトルメーカーは「ガラス製造業エンジニア経験者」、特殊鋼材加工メーカーの拠点責任者職は「MD経験」「自動車業界での経験」です。
この階層で問われているのは年数そのものではなく、どの規模の組織で何を任されてきたかです。職務経歴書には、見ていた従業員数、拠点の売上規模、自分の決裁範囲を具体的に書いたほうが伝わります。
住宅補助と一時帰国手当|報酬以外で差がつくところ

福利厚生欄を読むと、月給の額だけでは見えない差が並んでいます。
自動車部品メーカーの技術設計職は、求人タイトルにまで「ドライバー付き社用車貸与」と入れています。福利厚生欄には「通勤補助(社用車・ドライバー貸与」に加えて「住宅補助」「一時帰国手当(航空券 年2回)」があります。なお、ドライバー付きの社用車自体はタイの求人では経営職に限った待遇ではなく、営業職などでも見かけます。この求人で目を引くのは、年2回の一時帰国が制度として書かれている点のほうです。
飲料ボトルメーカーの工場長職も「通勤について (要相談 : ドライバー付き社用車貸与可能)」と書き、あわせて「住宅手当」「役職手当」を挙げています。ダイカストメーカーは「通勤補助(社用車貸与もしくは乗合 / 役職により異なります。)」「住宅手当(応相談)」です。
建設会社の社長候補職は「社用車支給あり(自走)」で、こちらは自分で運転します。歓迎条件に「自動車運転免許をお持ちで自動車の運転ができる方」が入っているのはそのためです。同じ社用車でもドライバーが付くかどうかで意味合いが変わります。
賞与についても差があります。印刷製造メーカーが「年2回(7月・12月)※前年実績:年間3.2ヶ月分」、飲料ボトルメーカーが「賞与(年1回 / 平均2カ月)」「昇給(年1回 / 3~4%)」、自動車部品メーカーが「賞与(年1回 / 22年度実績2カ月)」。月給が高い階層だけに、賞与の月数差は金額として大きく効いてきます。
年間休日120日と106日|経営職でも休みの条件は割れる

報酬が高い求人ほど休みが少ないかというと、そう単純でもありませんでした。
年間休日を数字で書いているのは2件です。パトゥムターニーの印刷製造メーカーの工場長職が「年間休日:120日」、チョンブリーのダイカストメーカーが「年間休日106日(稼働日=259日)」。14日の差があります。
120日のほうは駐在員雇用の求人で、日本の会社の休日カレンダーが適用されているためです。ただし「全社イベントや全国営業会議などのため、年に数回程度の土曜出勤が発生する場合があります。その際は、時間外勤務手当・休日勤務手当を支給します。」という但し書きがついています。休日出勤に手当を出すと明記している求人は、このカテゴリでは2件あります。
106日のほうは「土日(月2回程度土曜日出勤あり)」で、工場の稼働に合わせた設計です。ほかに特殊鋼材加工メーカーの拠点責任者職が「年間労働日数245日」と書いていて、これは年間休日に直すとおよそ120日にあたります。
残りの3件のうち、土日祝休みとだけ書かれているのは2件です。バンコクの建設会社の社長候補職は「土曜隔週」で、6件のなかではもっとも土曜出勤の頻度が高い設計になっています。この求人も福利厚生欄に「休日勤務手当」を挙げています。
就業時間にも差があります。自動車部品メーカーの技術設計職が7:45〜16:45ともっとも早く、次いで特殊鋼材加工メーカー・飲料ボトルメーカー・ダイカストメーカーが8:00〜17:00、印刷製造メーカーが08:30〜17:30、建設会社の社長候補職が9:00〜18:00。工場勤務ほど朝が早く、バンコクのオフィス勤務ほど遅い、という順番になっています。
定年と年齢の扱い|60歳明記とシニア想定

タイの日系企業では定年が55歳に設定されている会社が少なくありません。このカテゴリでは、年齢について踏み込んで書いている求人が3件ありました。
特殊鋼材加工メーカーの拠点責任者職は、福利厚生欄に「定年退職年齢:60歳」と明記しています。自動車部品メーカーの技術設計職は応募資格の欄に「【定年】 社内規定では定年は60歳となっています。しかし、双方協議の上雇用延長の検討も可能です。」と書いていて、60歳以降も相談の余地があるとしています。
飲料ボトルメーカーの工場長職はさらに明確で、必須条件に「年齢不問 (シニアの方を想定)」と入れています。シニア層を想定していることを条件欄に書く求人は珍しく、この階層で求められているのが年齢ではなく経験の厚みであることがよく表れています。
もう一点、特殊鋼材加工メーカーの求人には注意して読むべき記載があります。「社会保険(医療保険): 有り 但し、MDに関しては社会保険はなく、民間の医療保険に加入(会社の補助なし)」というものです。MD(マネージングダイレクター)として登記される立場になると、従業員としての社会保険の対象から外れる場合があるということです。退職金についても「定年まで勤務した場合は労働法により決められた退職金支給、自己都合での退職は退職金なし」と条件が書かれています。
月給10万〜30万バーツ|レンジがどこで決まっているか

6件の給与レンジをもう一度並べると、何がレンジを決めているかが見えてきます。
もっとも高い200,000〜300,000バーツの技術設計職は、必須条件が「部品設計および製造工程について管理されてきたご経験 (理想10年以上)」と「Auto CAD / Solid work が扱えること (ビジネスレベル)」の2つだけです。ここで「ビジネスレベル」と言われているのは英語ではなくCADソフトの習熟度で、語学は歓迎条件にしか出てきません。つまりこの金額は、語学でも肩書きでもなく、特定の技術領域における実務の厚みに対して払われています。
170,000〜280,000バーツのダイカストメーカーは「自動車(部品)業界での経験10年以上または工場運営管理経験」。170,000〜250,000バーツの印刷製造メーカーは「従業員100名以上での製造工場での勤務経験」と3言語ビジネスレベル。金額が上がるほど、任される組織の規模か、代替のきかない専門性のどちらかが効いています。
下限がもっとも低い100,000〜150,000バーツの建設会社の社長候補職は、必須条件が「5年以上の建設業界の経験」「マネジメント経験」「CADの操作に精通」「英語もしくはタイ語日常会話レベル」の4つ。ほかの5件と比べると求める経験年数が短く、そのぶん提示額も抑えられています。「将来の社長候補」という書き方からも、いまの実力より育成の余地を見ている募集だとわかります。
この階層を狙うなら、いま自分が持っている「代替がきかないもの」が何かを特定することが出発点になります。年数でも肩書きでもなく、それが技術なのか、規模のマネジメントなのか、業界の知見なのかで、応募できる求人が変わります。
ビザ・就労許可と、応募前に整理しておきたいこと

タイで働くには、就労ビザ(ノンイミグラントB)と労働許可証(ワークパーミット)の両方が必要です。ビザは本人が申請しますが、その際に雇用主が労働局から取得する就労事前承認書(WP3)などの書類が必要になるため、採用が決まらないうちに個人だけで進めることはできません。労働許可証は入国後に申請します。委任状によって雇用主や代行業者が手続きを進めるのが実務上は一般的で、今回の6件はすべて福利厚生欄に「ビザ、労働許可証支給」と書いています。
この階層に特有の論点として、MD(マネージングダイレクター)や取締役として登記されるかどうかがあります。登記される立場になると、就労許可の種類や社会保険の扱い、責任の範囲が従業員とは変わってきます。今回の6件のうち1件が、MDは社会保険の対象外で民間の医療保険に会社の補助なしで加入する、と明記していました。契約の形について面接で確認しておく価値があります。
もう一つ、駐在員か現地採用かは提示額以上に大きな違いを生みます。日本の健康保険と厚生年金に入り続けられるか、一時帰国の費用が出るか、子どもの教育費の扱いはどうか。今回の6件でも、この点で制度の土台がはっきり分かれていました。月給のバーツ建ての数字だけを比べると、判断を誤ります。
応募前に整理しておくと動きやすいのは、次の3点です。第一に、これまで見てきた組織の規模。従業員数、拠点の売上、自分の決裁範囲を数字で言えるようにしておくと、書類の段階で判断されやすくなります。第二に、自分の専門が何の領域にあるか。製造なのか、品質なのか、技術設計なのか、経営管理なのか。このカテゴリの求人は業界と職能を名指しで指定してきます。第三に、雇用形態の希望。駐在員としての採用を目指すのか、現地採用でも構わないのか。ここを決めておかないと、条件の比較ができません。
下のリストは実際に募集されている求人です。条件は随時更新されるので、気になるものがあれば詳細ページで最新の内容を確認してみてください。

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