タイのメーカー(電気・電子)で募集されている求人を23件並べてみると、意外な事実に気づきます。技術職より営業職のほうがはるかに多いのです。23件のうち14件が営業/セールスエンジニアを職種に含んでいます。
もうひとつ特徴的なのが給与の幅です。月給50,000バーツから150,000バーツで、上限150,000バーツの求人が7件。他の職種カテゴリで見られる20万、30万といったレンジがほとんど出てきません。この記事では、タイの電機・電子業界で公開されている求人を役割ごとに整理し、この構造が何を意味するのかまで読み解いていきます。
技術者より営業が多い|23件の職種構成

まず職種の内訳を見てください。掲載23件のうち、営業/セールスエンジニアを含む求人が14件。次いで工場管理・生産管理・購買調達が3件、企画・事務・マーケティングが3件、ITエンジニア(オープン系)が3件、製造業エンジニア(その他)が3件と続きます。
これは電機・電子業界の商流の形を反映しています。タイには日系・中華系・台湾系のメーカーが工場を持ち、そこへ部品や設備を納める商社・代理店が集まっている。日本人が採用されるのは、その「売る側」「つなぐ側」であることが多いという構図です。
技術職がないわけではありません。組み込みソフトウェアエンジニア、生産技術、機械加工エンジニア、CS&QAマネージャーといったポジションも並んでいます。ただし数の上では営業が中心です。
この構図が転職者にとって何を意味するか。ひとつは、製造業の技術者としてのキャリアがなくても入れる余地があるということです。日本で法人営業をしてきた人、商社で調達をしてきた人にも入口があります。もうひとつは、業界知識が後から効いてくるということ。営業といっても扱うのはPCBや電子部品、空調機器といった専門性の高い商材で、顧客はメーカーの技術者です。図面や仕様が読めるようになるほど、任される範囲が広がっていきます。
法人営業1年から応募できる|営業職の入口の広さ

営業職の中でも、要求される経験には段差があります。
最も入口が広いのが、日系電子部品商社の営業(バンコク、月給60,000〜100,000バーツ)。必須条件は「大卒」「法人営業経験1年以上」「英語日常会話(業務を遂行できるできるレベル)」の3点だけで、電子部品や半導体の業界経験は歓迎条件にとどまります。特徴欄には「新卒歓迎」「20代活躍中」「オンラインで内定まで」が並びます。
一段上がると業界知識が必須になります。日系大手エレクトロニクス商社の営業プロジェクトリーダー(バンコク、100,000〜150,000バーツ)は「5年以上の営業経験」に加えて「PCB、電子部品業界での経験がある方」が必須。さらに「出張できる方(2か月に1度インドネシア・マレーシア・インドなど)」という条件も入ります。
中華系部品メーカーの営業マネージャー(バンコク、80,000〜150,000バーツ)は「商社およびメーカー(製造業)にてマネージャー経験者(目安として2年程度)」と「自動車運転免許(社用車を自分で運転いただきます)」が必須で、歓迎条件に「切削加工図面が理解できる方」「価格交渉、原価交渉の実務経験」が挙がっています。
日本で法人営業をしてきた方が、業界知識を後から足していける構造になっています。
営業と購買は地続き|商流の両側を見るポジション

この業界の求人でよく見かけるのが、営業と購買を1人が担当する形です。
空調配管専門商社の営業・購買ゼネラルマネージャー(サムットプラーカーン、100,000〜150,000バーツ)は、必須条件が「製造業もしくは商社における営業および購買実務経験5年以上(製造業経験者優先)」。歓迎条件には「銅管・銅素材、冷凍・空調機器、配管関連、またはそれらに類似する業界での実務経験」とあり、扱う素材まで具体的です。
中華系部品メーカーは営業マネージャーと購買・調達サブマネージャー(バンコク、60,000〜80,000バーツ)を同時に募集しており、どちらも特徴欄に「キャリアパス豊富」が付いています。
売る側と買う側の両方を経験できるのは、商社機能を持つ拠点ならではです。日本では分業されている領域が、海外拠点では1人の担当範囲になります。
技術職は何が求められるか|生産技術・組込ソフト・機械加工

数は少ないものの、技術職の求人も条件がはっきりしています。
EMS企業の生産技術(チョンブリー、80,000〜120,000バーツ)は「電子機器製造業界における生産技術の経験(5年以上)」と「英語日常会話レベル以上」が必須。歓迎条件に「プリント基板実装/電子製品の受入・実装・組立・検査・出荷に関わる生産技術業務全般」「海外工場での現場経験(生産ライン立上げ、生産改善)」が並びます。
日系精密部品メーカーの機械加工エンジニア(アユタヤ、100,000〜130,000バーツ)は「NC旋盤、マシニングセンタを用いた金属切削加工のご経験を最低5年〜目安として10年」が必須で、語学は歓迎条件です。求人タイトルには「シニア大歓迎」とあります。
日系大手エレクトロニクス商社のソフトウェアエンジニア(PM)(バンコク、50,000〜60,000バーツ)は、必須条件が「2年以上の社会人経験」と「組み込みソフトウェア開発もしくはその他汎用システムのソフトウェア開発の経験」。特徴欄には「新卒歓迎」「年間休日120日以上」「服装自由」「ワークライフバランス重視」が並び、この業界の求人の中では珍しい構成です。
管理部門の求人もある|法務・経理という選択肢

営業と技術以外に、拠点の管理機能を担うポジションも含まれています。
日系大手商社のリージョナル法務・リスクマネジメント・コンプライアンスマネージャー(バンコク、90,000〜150,000バーツ)は、必須条件が「法務コンプライアンス、リスクマネジメント、コーポレートガバナンス、内部統制、許認可管理、規程管理のうち3つ以上の実務経験」「関連業務経験3年以上」「海外拠点または海外案件の対応経験」「英語ビジネスレベル以上(TOEIC 660点以上目安)」。歓迎条件にMBA、LLM、弁護士資格が挙がっています。
精密部品メーカーの経理(サラブリー、130,000〜150,000バーツ)は「経理の実務経験が5年以上あり、かつ製造業での会計経験(原価計算ができる)が最低3年」が必須。「サラブリ県にご自身で通勤できる方(通勤バス等のサポートはございません)」という条件も明記されています。
月給5万〜15万バーツ|上限が15万で揃う理由

公開されている求人の給与を整理しました。
| ポジションの層 | 月給レンジ(バーツ) | 代表的な求人 |
|---|---|---|
| マネージャー・GM層 | 80,000〜150,000 | 営業・購買GM、営業マネージャー、法務マネージャー、経理 |
| リーダー・専門職層 | 60,000〜150,000 | 営業プロジェクトリーダー、生産技術、機械加工エンジニア |
| 担当者層 | 50,000〜120,000 | 営業、購買・調達サブマネージャー、ソフトウェアエンジニア |
特徴的なのは上限です。150,000バーツが上限という求人が7件あり、それを超えるレンジがこのカテゴリには出てきません。同じタイの求人でも、設計開発エンジニアには30万バーツ、生産・製造・品質エンジニアには28万バーツの募集がありますから、業界として明確な差があります。
下限の50,000バーツから始まる求人は4件。ソフトウェアエンジニア(PM)、日系大手メーカーの営業・営業コーディネーター、日系技術サービス企業の営業、そして日系大手エアコンメーカーの組み込みソフトウェアエンジニアです。
なぜ上限が抑えられるのか。求人票を読むと理由が見えてきます。この業界で日本人が担うのは、既存顧客との関係維持と新規の引き合い対応、そして日本本社と現地工場の間の調整です。事業そのものの数字を持つ拠点責任者クラスの募集が、今回の23件には含まれていません。設計開発や生産技術の記事で見た30万バーツ級のポジションは、いずれも工場全体や技術部門全体の責任を持つ役割でした。
裏を返せば、この業界は入口が広いぶん、上に行くには拠点全体を見る立場に移る必要があるということです。営業マネージャーや営業・購買ゼネラルマネージャーの求人に「キャリアパス豊富」のタグが付いているのは、その道筋が用意されているという意味に読めます。
大きく稼ぐより、安定した条件で長く働く。この業界の求人を読むときは、そういう前提で見たほうが実態に合います。
バンコク12件、チョンブリー5件|オフィスが中心になる理由

勤務地はバンコクが12件と半数を占め、次いでチョンブリー5件、サムットプラーカーン2件、アユタヤ・パトゥムターニー・サラブリー・タイその他が各1件です。
他の製造業系カテゴリでは工業団地が中心になりますが、この業界はバンコクが多い。営業と商社機能の求人が中心だからです。顧客であるメーカーは郊外の工業団地にありますが、営業拠点は都心のオフィスに置かれています。
一方で工場側の求人は郊外に出ます。生産技術はチョンブリー、機械加工エンジニアはアユタヤ、経理はサラブリー。サラブリーの求人には通勤バスがないと明記されており、自家用車が前提です。電子部品商社の営業マネジャーはアマタナコン勤務で送迎ありと、通勤条件が求人ごとに書き分けられています。
英語は日常会話が基準|TOEICを明示する求人もある

語学要件は「英語日常会話」を基準に置いた求人が多数を占めます。
日系電子部品商社の営業は「英語日常会話(業務を遂行できるできるレベル)」、空調配管専門商社は「英語日常会話以上」、中華系部品メーカーの営業マネージャーは「英語日常会話」、EMS企業の生産技術は「英語日常会話レベル以上」。
点数を明示しているのは2件です。日系大手商社の法務マネージャーが「英語ビジネスレベル以上(TOEIC 660点以上目安)」、精密部品メーカーの経理が「英語(目安としてTOEIC 600点以上)」。いずれも管理部門で、社内外の文書を扱うポジションです。
技術職では語学が歓迎条件に回ることもあります。機械加工エンジニアは必須条件が切削加工の経験のみで、「タイ語、英語が可能な方」は歓迎条件です。
日系か中華系か|応募前に確認しておきたい違い

掲載求人には日系企業と中華系企業が混在しています。求人票の書きぶりにも違いが出ます。
日系の求人は福利厚生の記載が細かく、賞与の実績や有給の日数、健康診断まで書かれていることが多い。一方、中華系部品メーカーの2ポジションは「通勤便利」「キャリアパス豊富」を前面に出し、役割と昇進の道筋を強調しています。
どちらが良いという話ではなく、何を重視するかの違いです。制度の安定を取るのか、裁量とスピードを取るのか。面談で確認しておくと入社後のギャップが減ります。
ビザ・就労許可と、応募前に整理しておきたいこと

タイで働くには、ノンイミグラントBビザ(就労目的の査証)とワークパーミット(労働許可証)が必要です。手続きは採用企業が主体となって進めます。日系IT企業の求人のように「ビザ、労働許可証支給(帯同したご家族分も支給)」と家族分まで明記しているものもあります。
応募前に整理しておきたいのは、次の3点です。
- 営業として入るのか、技術として入るのか:求人数が多いのは営業です。法人営業の経験が1年あれば応募できる求人もあります。技術職は経験5年以上が基準になります。
- 扱ってきた製品と業界を書き出す:PCB、電子部品、半導体、銅管・空調機器と、求人票は扱う商材で条件を切っています。職務経歴書も同じ粒度で書いてください。
- 通勤手段を確認する:バンコク勤務が多いとはいえ、郊外の求人では自家用車が前提のものもあります。送迎の有無は条件欄に書かれています。
まずは実際の求人を眺めて、自分の経験がどのポジションに接続するか確かめてみてください。
※本記事の求人情報・給与・勤務条件は、ABROADERS CAREER 掲載求人(求人掲載元:Reeracoen Thailand、2026年8月時点)に基づいています。

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